異質、と言えばもう一つ。僕は女だけれど、男の格好や遊びをよく好んだ。幸い家族はあまり気にしていないようだったし、学校では僕の核心を突けるほど深い友人関係になった者はいなかったから、はっきりと僕に何か聞かれたこともない。それでも世間一般的に見れば僕のような存在は異質と言えると思う。
年齢を重ねるにつれ、ますます僕は自分が何者かわからなくなっていった。
僕は風になりたくて陸上競技や車やモータースポーツなど、あらゆる手段で走り始めたのだけれど、いざ走り始めると、走っている間は僕が僕らしくいられることに気がついた。いや、何も気にならなくなるというのが正しいだろうか。目の前の事だけに集中していると、他のことはどうでも良くなるのだ。
あの時……僕は風に呼ばれた。風が騒ぐ声が聞こえて走り始めた。それは風からの危険な誘いでもあり、同時に僕を本当の自分に導いてくれる声でもあった。
そう、今日みたいに。
それ以来僕は、風の声に従って生きてきた。風に呼ばれたら走り、風が落ち着いた日にはおとなしく過ごした。それが僕を僕らしくさせることに気がついたから。
戦士になってからの行動パターンもあまり変わらない。風が騒いだらみちると共に駆けつけ、使命の為に敵を殺し、風が凪いだら家に帰る。
……だけど何だ。今日は風が落ち着いて帰宅したにも関わらず、なぜ僕はまた走り出したのだろう。風の騒ぎは収まったのに、胸騒ぎはずっと止まらない。どうしようもなく腹立たしく、怒りと強い衝動が僕の内側から湧き上がっている。