翌日。
夜天、大気が目を覚ましてもやはり星野は部屋にはいなかった。
「やはり先に帰ったようですね」
「どーする? 僕らだけで挨拶してさっさと帰ろうか」
二人がクイーンの元へ向かっていると、一階の入口付近でクイーンが誰かと立ち話をしているのが見えた。
「おや、あれは」
夜天、大気が近づくと、その人物も気づいて二人のほうを見る。みちるだった。
「ああ、ごきげんよう」
みちるはいつも通り優雅に挨拶をしたのだが、どこか顔に焦りが浮かんでいた。どうしたのかと大気がクイーンの顔を見ると、クイーンが心配そうな表情で口を開いた。
「はるかさんが、いなくなっちゃったんだって」
「えっ」
驚く二人に、みちるが尋ねた。
「心当たりはないかしら」
みちるの言葉に、夜天と大気は顔を見合わせた。大気が答える。
「夜中に星野と話をしていたみたいですが。星野はそのあと……」
大気は言葉を切った。パレスの入口の扉が開いてクイーンとみちるがそちらを向いたからだ。ドアの隙間から流れ込む光が全員を照らす。一同の視線がそちらを向いた。
入口には二人の人物が――まさしくそれは、今話題に上がっていた二人だった。
「星野」
「はるか!」
皆に迎え入れられ、星野はよっ、と片手を上げて入ってきた。はるかはいつもと変わらぬ様子だ。
「帰るって言ってなかったっけ」
夜天が星野に問うと、星野はまあな、と呟いた。それから夜天と大気に軽く目配せをする。言いたいことはあるが今は話せない――そんな雰囲気を受け取った二人は目を見合わせ、口を噤んだ。
「はるか、心配したわ」
「ごめん、みちる。心配かけたね」
みちるがはるかの傍に寄って声をかけた。その答えに、みちるは目を瞬かせる。
「はる、か?」
思わず静止して、はるかの顔を見上げた。その表情と声色は紛れもなく、いつものはるかだ。――そう。ウラヌスではなく、”はるか”だ。
「どうした、みちる」
固まったままはるかを見つめるみちるの頬に、はるかが触れた。みちるは震える手を持ち上げ、はるかが触れた手の上に自らの手を重ねた。
「はるか……よね?」
みちるの動揺ぶりに、はるかが困ったように微笑んだ。
「どうしたんだよ、みちる。僕だよ」
はるかの答えに、みちるは思わずはるかの頬に触れる。まるで長らく会っていなかった恋人に会うことができたかのような、そんな表情で、はるかの頬の感触を確かめる。
はるかは不思議そうな顔で、優しく微笑んだ。
「みちる?」
見開かれたみちるの瞳が、みるみるうちに潤み始めた。その表情を見てさらに困惑するはるかの胸に、みちるが自分の顔を押し当てる。
「どうして……ああ、はるか。はるか……」
突然の出来事にはるかは明らかに驚いていたが、何も言わずに黙ってみちるを抱き止める。背中に優しく腕を回し、宥めるようにそっと力を込めた。
一連の様子を傍で見ていたクイーンが、こっそり星野に声をかけた。
「星野……どういうこと?」
問われた星野は、軽くウインクをして言った。
「まあ、そういうことだ」
星野はみちるに、「はるかとは夜中に偶然会って積もる話をいろいろとしていた」という、簡潔でやや雑な説明をした。その説明で納得したのかどうかは不明だが、ありがとう、と告げてみちるははるかと共に帰宅していった。
残された四人は、再びパレスの一室に集まっていた。
「で、星野。はるかさんと何があったの?」
全員が着席すると共に、クイーンが星野に尋ねた。ああ、と頷いて、星野が話し始める。
「俺、昨日あいつに、頼まれたんだ」