ネプチューンがウラヌスの名を呼ぶことを諦め、それでもなお膝に彼女を抱えたまま放心し、しばらく時間が経過した。ファイターも同じようにそこに座り、じっと俯いていた。
「ファイター」
落ち着いた、上品な声でファイターの名が呼ばれる。顔を上げると、そこにはヒーラーとメイカー、それに火球皇女が立っていた。ヒーラーは身体に複数傷を負っているのが一目でわかったが、メイカーと皇女には怪我はなさそうだった。ファイターは少し安堵する。
ヒーラーは横たわるウラヌスと、それを支えるネプチューンを見て、はっとしたような表情をした。その視線はファイターに移る。説明を求めるかのようなヒーラーの視線に、ファイターは言葉は発さず、目を伏せて首を振るに留めた。
「そんな……」
ヒーラーは愕然とした表情になり、そう呟いた。
皇女はウラヌスに近づいて跪き、祈りを捧げるように手を合わせた。
「誇り高き銀河の戦士よ……我々のために力を尽くしてくださったこと、心より感謝いたします」
皇女は目を閉じて俯いていた。その瞳から、一筋の涙が溢れた。それから、目を開けてネプチューンとスターライツの三人に顔を向ける。
「プリンセス」
ファイターは皇女の無事を喜びたい気持ちを抑えつつ、尋ねた。
「貴女の力で、ウラヌスを蘇らせることはできないでしょうか」
皇女は軽く目を伏せ、横たわるウラヌスを見た。
「身体はここに存在しているので……できるとは、思います」
その一言に、その場にいた四名の表情が明らかに明るくなった。しかし、皇女は浮かない顔でウラヌスを見つめたまま、続けた。
「ただ……一つ心配が」
「心配って」
皇女の言葉に、ヒーラーが反応する。皇女は俯いたまま、胸に手を当てた。
「私が転生の力を使う時は、生きているうちにその人の魂の一部を、私の香炉に入れておくのです。この星の者たちは、生まれた時点で皆そうしています。
ですが……彼女には、その準備ができていません」
火球皇女は言葉を切った。ネプチューンがはっとしたような顔で目を見開く。メイカーがおそるおそる尋ねた。
「それは……どういうことでしょうか」
皇女は相変わらずウラヌスに視線を落としたまま、言葉を続けた。
「香炉に魂が入っていない場合……彼女を、”完全に”蘇らせることができないかもしれません」
「完全、に」
今度はファイターが呟いた。皇女は頷く。
「私の力は、その人の魂や記憶を頼りに、その人を蘇らせる能力なのです。ですから、頼りになるものがなければ、能力をきちんと発揮できないおそれがあります」
皇女の言葉に、四人の表情はまた暗くなった。ファイターは、ウラヌスが倒れた際のネプチューンの表情を思い出し、唇を噛む。
ネプチューンは、黙って皇女を見つめていた。
「なにか、手がかりになるようなものがあれば……できますか」
ネプチューンが掠れた声で尋ねた。皇女は頷く。
「手がかりとしては少し弱いですが、その人の持ち物を使うことも、可能です」
皇女の言葉に、ネプチューンは依然として自らの膝の上に抱えていたウラヌスを見つめた。美しい顔立ちは、まるで眠っているだけのようだった。起こせばまた自分に微笑みかけてくれる、そんな錯覚を起こしそうだ。
ネプチューンは込み上げてくるものをぐっと抑え、ウラヌスの頭を持ち上げて優しくその場に横たえた。それから、ウラヌスの手にずっと握られていたスペース・ソードを引き抜く。
まるで戦いに使ったとはとても思えないような、美しい剣だった。ネプチューンはしばしその剣を目の前に掲げて見つめたあとで、恭しく持ち上げて皇女に渡す。
「これを……」
「転生に使うものは、本人の魂になるべく近いものが良いです。
……これで、いいのですね」
ネプチューンはこくりと頷いた。皇女もまたネプチューンの瞳をじっと見つめ、その意思を確認したように頷いた。ネプチューンの手から、スペース・ソードを受け取る。
皇女は再びウラヌスの元に跪き、スペース・ソードをそばに置いた。そして目を閉じてウラヌスに手をかざす。四人は、固唾を飲んでその様子を見つめていた。
目には見えなかったが、確実にその場に何か異なる空気が漂ったのを、一同は感じていた。まるでウラヌスを、優しいオーラが包んでいるかのようだった。ネプチューンは思わず自らの手を祈るように合わせ、握った。
皇女がしばらくそのまま静止していると、やがてウラヌスの頬に薄く赤みがさし、生気が戻ったように見えてきた。それに気づいたネプチューンははっとして、ウラヌスの肩に手を添え、名を呼ぶ。
「はるか……」
まもなく、ウラヌスは閉じていた目をゆっくりと開けた。少しの間目を瞬かせたと思うと、ネプチューンと目が合う。
「はるか」
ネプチューンはもう一度声をかけた。ウラヌスが口を開く。
「君は……セーラーネプチューンか」