はるかとみちるは、パレス内の部屋の一室に招かれた。そこは、戦士たちが集まって会議をしたり、おしゃべりするのに集まったり、時には食事会をしたり……人が集まる際のさまざまな用途で使われる部屋だった。
「何か困ったことでもあったのか?」
席に座ると早速、はるかが尋ねた。はるかとみちるは外部太陽系戦士として太陽系外部から侵入する敵を倒す役割を担っていたので、二人がここに呼ばれるということはつまり、外からの侵入者が来た可能性が高いと考えていた。
予想通り、クイーンはこくり頷いた。しかしその次に出てきた言葉は、二人の予想していなかったあの惑星の名前だった。
「キンモク星を、覚えていますよね?」
クイーンの言葉に、二人は思わず目を見合わせる。それからその視線はまたクイーンに向いた。
「キンモク星って、あの」
「あいつらの」
はるかとみちるが、ほぼ同時に声を発する。クイーンはにっこり笑って頷いた。
「そう」
みちるははるかの横顔をチラリと見る。「キンモク星」の言葉を聞いたはるかは、表情こそ変わらないが、目元が少し厳しくなったように見えた。
「あいつらがどうしたんだ」
棘のある言葉で、はるかはクイーンに尋ねる。みちるはその声を聞いて、横で苦笑いをした。
はるかの問いに、クイーンがやや俯き、憂いを帯びた表情となった。はるかは表情を変えずにその様子を見つめ、みちるは少し心配そうな顔つきになる。
「困っている……みたいなの」
「困っている?」
クイーンの言葉に、みちるがおうむ返しで尋ねた。クイーンが頷く。
「キンモク星が、敵に襲われているみたいなの」
クイーンが、顔を上げた。潤んだ瞳で二人を見つめる。二人の顔ははっとした表情に変化した。
「敵に」
「まあ」
はるかとみちるの反応に、クイーンは続けた。
「火球皇女の持つ力を狙って、キンモク星が侵略されているそうなの。
キンモク星の人たちが、転生を繰り返しているという話は二人も知ってますよね」
クイーンに尋ねられ、二人はキンモク星について以前教えてもらった話を思い出しながら、頷いた。
「ああ。前に聞いたな」
その話を聞いたのは、地球がコールドスリープから復活したばかりの頃。
キングとクイーンが即位してからしばらくして、クイーンはキンモク星にコンタクトを取った。かつて地球と関わりのあった星が今どうしているのか知りたかったのだ。
キンモク星は地球がコールドスリープした後も、脈々と生命活動を続けていた。驚いたのは、キンモク星を統治しているのは、二十世紀末と変わらず火球皇女だったということだ。
「キンモク星人は地球人よりも寿命が長い上、私の力で何度も転生をすることができます。
キンモク星の戦士たちも、あの頃と変わらず元気にしていますよ」
久しぶりに地球を訪れた火球皇女は、クイーンにその秘密を明かした。そしてクイーンはその秘密を、地球の戦士たちにも伝えたのだった。
「あの転生のパワーを狙っているということかしら」
「はい。そうみたいです」
みちるがクイーンに尋ねると、クイーンは頷いた。
「それで?僕たちはどうすればいいんだ」
はるかがもったいつけたようにクイーンに尋ねた。わかっているでしょうに、といった雰囲気で、みちるが呆れたように軽いため息をつく。
クイーンはテーブルに向けて頭を伏せた。
「お願い。キンモク星を助けてあげて欲しいの」
はるかは腕を組み、クイーンを見つめていた。その目は厳しいだけのものではなく優しさも湛えてはいる。しかしやはり表情はやや堅い。
「お言葉ですがクイーン。太陽系外の惑星の危機に対して僕たちが出向く必要はあるのかな」
はるかはわざとらしくそう言った。
「はるか」
みちるが小さな声ではるかを咎める。
クイーンは顔を上げた。目をぱちぱちと瞬かせ、上目遣いではるかを見る。
「はるかさん……もしかしてファイターたちに会いたくないの? 」
その言葉に、はるかが不意を突かれたような顔をした。
「……別に、そういうわけじゃ」
「だったら、お願い。外部戦士であるあなたたちにしか頼めないの」
クイーンは顔の前で手を合わせ、はるかとみちるにもう一度頭を下げた。
クイーンが懇願する様子に、はるかとみちるはまた互いに顔を見合わせた。クイーンの言う通り、地球の守備を手薄にするわけにはいかないから内部戦士達が動くことはできないし、二人が適任であるのは頷ける。
みちるが、ほら、とはるかに目線で訴えかける。はるかは、渋々といった様子で頷いた。
「わかったよ。僕たちが助けに行こう」