クイーンと別れてから、みちるはもう一度ため息をついた。今度ははるかに分かるように、わざと、だ。
はるかはみちるの意図を理解した上で、ふっ、と軽く鼻で笑う。
「別にクイーンを困らせたかったわけじゃない。ただ、本当に僕たちがやるべき仕事なのか聞いただけだ」
「もう。素直じゃないわね、本当に」
みちるが呆れたような顔で言う。はるかは気にも留めずに言った。
「まあいいや。ちょうど新しい技を練習していたところだし。試すチャンスだ」
はるかの言う「新しい技の練習」は、同じくセーラー戦士である土萠ほたるの父、土萠創一の協力で行われているものだった。
三十世紀で目を覚ました創一は、クイーンやセーラー戦士たちが自らの能力や立場を明かしたことで、自分の娘がセーラー戦士であることを知った。
すると、セーラー戦士たちを全面的にバックアップするための研究に明け暮れ始めた。二十世紀の頃にファラオ90に悪用された自らの研究の力を、今度はセーラー戦士たちのために活かそうとしたのである。
そして生まれたのが、トレーニング用ゲルマトイドの大量発生装置である。この装置を利用すると、予め設定した強さのゲルマトイドが一定の間隔で発生し続けるので、あらゆるパターンを想定した敵との戦いのトレーニングができるというわけだ。
積極的に使用してトレーニングをしていたのは、もともと格闘技や運動が好きだったまこととはるか、それから真面目な亜美くらいで、全員が活用していたわけではなかったが……少なくともはるかにとっては、練習材料としてはうってつけの装置だった。
「新しい技なんて練習していたのね」
みちるは初耳だったので、驚いていた。三十世紀での生活が始まってから数年経っているが、今まで新しい技の練習をしている様子は見受けられなかった。
「たまたま思いついたからさ」
はるかがそう言ってみちるにウインクをしてみせてから、みちるの腰に手を回して抱き寄せる。
「君がピンチになっても助けられるように……ね」
「まあ」
三十世紀で暮らし始めてから、私がピンチになったことなんてあったかしら。みちるは内心そんなことを思っていたが、久しぶりに楽しそうに瞳をキラキラさせて語るはるかが楽しそうだったので、そっと微笑んで胸にしまった。