「君は……セーラーネプチューンか」
キンモク星で火球皇女の力により目を覚ましたウラヌスは、真っ先に目にしたネプチューンの名を呼んだ。ウラヌスの目覚めを喜んだのも束の間、ネプチューンはウラヌスのその態度に違和感を感じた。
「はる……か?」
冷たく、鋭い視線。戦いの本能を持つ者の目。ネプチューンの背筋にぞくりとした寒気が走った。ウラヌスが身体を起こすのを手伝って、尋ねる。
「身体は、大丈夫?」
ネプチューンの問いに、ウラヌスは大丈夫だ、と頷く。ウラヌスの言う通り、身体は問題なさそうなのだが、ネプチューンには安堵よりも胸騒ぎがどんどん広がっていく。
「変身を、解いてみてくれる?」
ネプチューンが震える声で、しかし極力落ち着いて聞こえるように、囁いた。ウラヌスは一瞬ネプチューンの瞳を見つめ、それから自分の手のひらを広げて見る。
「変身を解いたら……僕はどうなる」
その問いに、ネプチューンははっとした。
――そんな。まさか。
心臓が一段高鳴って聞こえるのを感じた。おそるおそる、ウラヌスに言った。
「変身を解いたら、あなたは”はるか”に戻る、でしょう?」
ウラヌスは自分の手元に落としていた視線を、再びネプチューンに向けた。
「はるか……誰だ、それは」
ウラヌスの答えに、ネプチューンは絶句した。周りで聞いていたスターライツの三人も、驚いたような顔でウラヌスを見る。火球皇女だけは、俯いて黙っていた。
「プリンセス。これは一体……」
メイカーが戸惑ったような顔で皇女を見る。皇女はスペース・ソードをちらりと見て、口を開いた。
「この剣から辿ることができた魂を、この方の身体に戻したのですが……」
ネプチューンは火球皇女を見た。何か言いかけて口を開いたあと、言葉に迷って、閉じる。もう一度ウラヌスの方を見た。
――スペース・ソードから辿ることができた魂……。
それは、つまり。ネプチューンの頭の中でもしかして、という思いはあったのだが、それを口にするのが怖くて、言えなかった。ウラヌスは相変わらず鋭い視線のまま、ネプチューンを見つめている。
――確信は、持てなかった。
二十世紀のころも、三十世紀で地球が復活してからも、自分の前にいたのは天王はるか一人だった。セーラーウラヌスに変身している時も、ウラヌスの瞳を通して自分を見ていたのははるかだった。ウラヌスになったからといって、別人格になったと感じることはなかった。
だけど――。
ネプチューンが黙ったままウラヌスのことを見つめていると、不意に、ウラヌスが手を伸ばした。その手は真っ直ぐ、ネプチューンの頬に伸びる。ネプチューンははっとしてウラヌスを見つめたまま、その手を受け入れた。
「そんな顔をするな、ネプチューン」
ウラヌスは困ったような、だけど少し優しさを含んだ表情になり、そう言った。
ネプチューンの中で、何かが崩れる音がした。
「はる、か」
ウラヌスが伸ばした手を握る。ウラヌスが驚いたような顔をした。
「はるか、はるか……」
「僕は……」
戸惑うウラヌスの首に、ネプチューンは自らの腕を絡めた。
「はるか……はるか……はるかぁ…………」
ただただその名を呼ぶネプチューンに、ウラヌスはどうすることもできず、背中に腕を回した。皇女もスターライツの三人も、黙ってネプチューンのことを見つめていた。
静かなキンモク星の王宮付近に、ネプチューンの悲痛な声だけが響き続けていた。