――追いかけようと思えば、追いかけられたけれど……。
僕はその場で呆然と立ち尽くしていた。それからしゃがみこんで、下に転がってしまったいくつかのお菓子を拾う。
みちるが急に帰ると言い出したこと、そしていつもと様子が違うことに驚いてしまったことに加え、下に落ちたお菓子に気を取られてしまい、咄嗟に追いかけることができなかった。
さらに困ったことに、みちるの鞄を持ったままだ。お菓子を拾い終えてから、思わずため息をつく。
リュックにトートバッグ、それからみちるの鞄を手にしたまま、僕はとぼとぼと歩き始めた。
――なんでこんなことを……。
はるかと別れてから、私は後悔していた。
はるかが人気者だというのはよくわかっていた。陸上部で大会に出ても、モータースポーツのレースに出ても、ただ歩いている時でさえ、女子生徒が黄色い声を上げプレゼントを持って集まるような人なのだ。バレンタインに大量のチョコレートをもらうことくらい、予想がついていた。
わかっていたのに……実際にトートバッグに詰め込まれたお菓子の山を見たら、なんとも居た堪れない気持ちになった。
他の女性たちへの嫉妬もあるかもしれない。けれど、それよりも。
――私がプレゼントをあげたとしても、あの大量のお菓子のうちの一つにしかならないのね。
そんな虚しさのほうが、大きかった。
それにもう一つ。
私ははるかと放課後も休日も共に過ごす仲だ。それはあくまで使命あってこそ。なのに、私ははるかと一緒にいられることで、若干の優越感を感じていた愚かしい自分に気づいてしまった。
虚しさ、愚かしさ。
頭が真っ白になってしまい、気づいたらその場を離れてしまっていた。さらにははるかに鞄を持たせっぱなしだ。
一人になってから冷静に考えてみると、なんという醜態を晒してしまったのだろう。
「バカね、私……」
私は恥ずかしさで思わず立ち止まり、しゃがみ込んだ。