はるかが目を覚ますと、自室のソファの上にいた。早朝に目覚めたときと同様、全身が汗だくになっており、はっはっ、と短く荒い息が口から発せられている。
リビングの窓からは、明るい東京の街が見えた。重く苦しい空気はもう漂っていない。恐ろしいほどにリアルではあったが、あれはやはり夢だったのだ。しかし――。
――何かが、おかしい。
得体の知れない何かが、背後からゆっくりと近づいてくるような、そんな恐ろしさを感じていた。
「くそっ……」
戦いは終わった。平和な日々が戻ったと思っていた。そんな矢先に感じた不穏な空気に、はるかは思わずため息を漏らす。
プルルル……
はるかが俯いて先程までの夢に思いを巡らせていると、リビングに置かれた電話が鳴った。立ち上がり、受話器を持ち上げる。相手はみちるだった。
「休憩中なの。あと一時間半くらいで終わりそうよ」
みちるの穏やかな声を聞いて、はるかはどこかほっとした気持ちになるのを感じていた。ちらりと時計を見ると、三十分ほど眠っていたようだった。朝シャワーを浴びたのにまた汗だくになっていることに気づいて、はるかは一人、顔を顰める。
「はるか?」
「ん、ああ。一時間半後ね。終わったらそのままドライブに行こう」
「いいわね」
電話越しにみちるの声が弾むのが聞こえ、はるかは顰めていた顔が緩むのを感じた。夢に不安を煽られたせいもあるだろう、今はみちるに早く会いたい、と強く思っていた。
一言二言交わし、みちるが練習に戻るとのことで会話は終了する。
――そうは言っても、だ。
受話器を戻し、はるかは顎に手を当て、考え込むような表情をした。次に夢を見る可能性が高いタイミングまで――つまり夜までには、みちるにもこの夢のことを話すべきだろう。そして、新たな敵の到来に備え、話し合わなければならない。
これから楽しいドライブが待ち受けているというのに、はるかの気分は憂鬱だった。さっさとシャワーを浴びて、みちると合流する前に少し車を走らせよう――はるかはそう思いながら、汗だくになったTシャツを思い切りまくりあげて脱いだ。