目を開けると、また、暗い世界にいた。
――またか。
地面に横たわっていたはるかは、急いで身体を起こした。まさかこの短い期間でまさか二度も似たような夢を見るとは思わなかった。はるかの目は一気に覚め――もちろん、実際に現実世界で覚醒したわけではないが、意識は完全にはっきりとしていた――周囲に対して警戒を払う。
はるかは立ち上がり、今朝と同様、周囲を見渡してみた。厚く下がった雲に、灰色の街。雰囲気はまさに朝と同様だ。よくよく見ると色彩こそ失ってはいるが、今いる場所は現実世界にも存在する場所で、まさしく自宅マンションの前であることがわかった。
無意識のうちに、はるかの手がポケットに伸びた。そこにはセーラー戦士に変身するためのリップロッドが……。
――ある。
ポケットの中に、確かにいつもの感触が存在することを確認した。つまり、この世界で自らの身に危険が及べば、戦士となり戦うこともできるかもしれないし、そうしなければならない、ということである。
はるかは一瞬迷うようにロッドを握ってから、ポケットから手を出した。状況がよくわからないので、変身するべきかどうかまだよくわからなかった。
周囲には、朝と同様、人の存在は感じられなかった。圧迫感のある空気が漂っていて、物理的に掴まれているわけでもないのに、身体を締め付けられるような息苦しさを感じていた。
「ここは一体どこなんだ」
声を発してみた。小さく呟くような声ではあったが、くぐもっていて通りが悪いのはよくわかった。やはり何かに囲まれているかのような響き方だ。
得体の知れない何かに追い詰められるような緊張感で心臓の鼓動が大きくなってくるのがわかった。喉がカラカラに乾いていて、思わず生唾を飲み込む。
ふと、背後に何か気配を感じた。はっとしてはるかは勢いよく振り向く。咄嗟に手がポケットに伸びてロッドを掴んでいたが、直後、身体は硬直したかのように静止する。
――なんだ、あれは……。
はるかの後ろには、黒く大きな影が立ち上がるようにゆっくりと空に伸びていた。空はどんよりと暗かったが、その影が伸びていくことで、より暗さが増しているように見える。建物の隙間から見えていた影は、あっという間に高層マンションを優に超える高さになり、はるかを見下ろすように上空に広がった。そして、周辺にドームを作るかのようにはるかの周りを包む。
それはまるで、無限学園がファラオ90に支配されたときに、上空を覆っていたドームのようだった。はるかは強い圧迫感と、強力なオーラを感じていた。見えない力に押され、思わずしゃがみ込みそうになる。
はるかの姿勢が崩れ、視線がぶれる瞬間に、視界の端に何かが映った。
――誰か、いる。
リボンのあしらわれた、襟とスカートのあるレオタード。セーラー戦士を表す戦闘服。
――セーラー戦士?
はるかは慌てて顔を上げ、体勢を整え直そうとしたが、圧迫感には勝てなかった。みるみるうちに自分の顔が地面に近づき、倒れ込んでいく。