はるかとみちるが同日に良からぬ夢を見たその日は、はるかは冒頭の通りオフ、みちるは数週間後に控えたコンサートのための練習があった。朝食の後しばらくしてから、身支度を済ませたみちるに、はるかは送迎を申し出た。
先程見た夢の世界が嘘のような、爽やかな快晴だった。
「いい天気だな。せっかくだからドライブにでも行きたい気分だ」
はるかがそう漏らすと、みちるがくすりと笑った。
「じゃあ、私が練習を早く終わらせたら、連れて行ってくださる?」
「もちろん」
みちるがそう言うときはいつだって、類まれなる集中力を発揮して、本当に練習を早く終わらせて来るんだ――はるかはそう知っていたので、青空に引けを取らないほどの爽やかな笑顔を浮かべて返した。
みちるをコンサート会場の練習室まで見送って、はるかは少し遠回りをして帰路に着いた。みちるとのドライブはもちろんはるかにとって最高の楽しみだが、一人でのドライブも好きだった。一人のときは、いろいろな考え事をして走るのにちょうど良いのだ。
はるかは、今度出場するレースについて考えていた。国内外から多くの選手が集まる大規模なレース。はるかは国内最有力選手としてマークされていた。負けるつもりは全くなかったが、油断はできない。頭の中では、レースシミュレーションと当日までのトレーニングメニューについて考えていた。
はるかの頭の中はレースのことでいっぱいで、今朝見た不穏な夢については、ちらりとも頭の中には浮かばなかった。
はるかは一時間ほど走ってから帰宅した。起きた時間が早かったため随分時間が経っているように感じたが、まだ昼前である。活動時間が長い分お腹が空くのも早く感じられたので、少し早めの昼食を摂った。二人揃っていればゆっくりと楽しむ昼食も、一人だと風情もなくさっさと食べ終わってしまう。
昼食を食べ終わったら急に眠気に襲われた。無理もない、朝が早かったのだ。はるかは大きなあくびを一つして、ソファに寝転がった。オフとは言え自主トレーニングをしたかったのだが、この眠気ではどうしようもなさそうだ――ぼんやりとそんなことを考えながら、はるかはあっという間に夢の世界に引きずり込まれていった。