はるかとみちるは、現在都内のマンションに二人で暮らしていた。
世界が滅びから救われ、自分たちの遂行すべき使命がなくなった時、二人は元いた街を去ることに決めた。もうここに、自分たちの居場所はないと思ったのだ。
その時、口に出して約束を交わしたわけではなかったが、二人は自然と生活を共にすることを決めた。幾多の戦いと苦難を乗り越え、どちらかが命を落としても使命を守ろうと誓った二人は、結果的に二人とも生き残ることができた。使命の最中、微かに抱いた未来への希望の中にお互いの姿を映していた二人が、手を取り合って生きていくことを決めるのは自然な流れだった。
二人で暮らすようになってからは、はるかは以前から取り組んでいたモータースポーツに引き続き打ち込み、みちるもヴァイオリニストとして本格的に活動をし始めた。
そうして二人で生活を始めてからの数ヶ月、何か新たな敵の気配を感じたり、危機を感じるような予兆は一切なかった。
二人は風や海が騒ぐ気配を全く感じなくなった。それはもちろん、台風などの気象現象以外で、である。みちるのタリスマンである深水鏡は常に身近に置かれ、何か良からぬことが起きたらすぐに気がつけるように覗く習慣はあったのだが、そこに不穏な影が映り込むこともなかった。
世界はただただ平和で、二人は幸せな日々を享受し、ずっと二人で生きていく未来を信じて疑わなくなった。