「今日は早起きだったのね、はるか」
朝食を摂りながら、みちるはそう言った。はるかが目覚めてからもう四時間近く経つ。みちるは珍しく、いつもより少しだけ遅く起きてきた。
「目が覚めちゃったんだ。みちるは珍しく遅かったね」
遅かったと言っても、今日は朝からの予定はなかったし、いつもより数十分程度の寝坊だからあまり気にせずに口にした言葉だった。しかしはるかの意に反して、みちるは深刻な顔でコーヒーカップをソーサーに置き、俯いて言った。
「夜中に……恐ろしい夢を見て、しばらく眠れなかったの」
その口調にただならぬ様子を感じたはるかは、朝食を口に運ぶ手を止めてその顔を覗き込む。
「夢?」
ええ、と頷き、みちるは自らの腕を抱えた。
「あの夢みたいだったわ……」
みちるが言った言葉に、はるかは背筋が凍りつくように寒気が走るのを感じた。
――みちるも?
思わずそう口にしそうになって、咄嗟の判断でやめる。自分が見た夢の息苦しさを思うと、自分とみちるが似通った夢を同時に見たなどと言って、不安を煽るようなことをしたくなかった。
「それは……怖かったな」
言おうとした言葉を引っ込めて、そう一言、呟いた。顔を上げ、はるかの方を見たみちるの目は、まだ不安と恐怖で落ち着きがなく、波立っているように見えた。はるかは思わず息を呑む。
「何か、嫌な予兆じゃないといいんだけど……」
そう呟くみちるの肩に手を回し、はるかは身を寄せる。
「大丈夫さ。今の君には僕がいる」
みちるはまだ不安そうな表情をしていたが、はるかの言葉に少し元気づけられたようだった。一瞬間を置いてから、そうね、と呟く。
それが本当に予兆であったとは、その時の二人は思いもしなかった。