戦いが終わったばかりで、なおかつ昔のことを思い出させるようなきっかけもあったし、さらにはドライブ中の決意もあって、その日の僕は少し気が昂ぶっていたのかもしれない。
「キス……してみる?」
僕はまた、みちるの心を試そうとしていた。
ドライブの帰りに上がった、みちるの部屋。日が落ちて薄暗い中、みちるの白く美しい顔のラインがぼんやりと浮かぶ。あからさまな戸惑いと、恥じらいの表情を持って。
「僕と、キスするのは。……嫌?」
おそらく僕は、多少の自惚れがあったのだと思う。みちるがどう反応するかわからずとても気になっていたけれど、内心ではみちるが嫌とは言わないだろうという確信があった。
しかし――みちるは即答しなかった。
「だめよ、はるか……」
嫌だ、とは言われなかった。ただ、拒否された。その言葉の裏にある思いは、僕にも痛いほど伝わってきた。
使命があるから。
僕たちはそういう関係になってはいけないから。
――わかっている。わかっているけれど。
僕はみちるの腕を掴み、壁に押し付けるようにして迫っていた。みちるが驚いたように目を見開いたあと、ぎゅっと目を瞑り、怯えるように身体を強張らせた。
怖がらせるつもりはまったくなかった。ただ、みちるに――僕と向き合って欲しかった。
使命、使命、使命……。
そこから逃れられないことは、十分に理解している。
だけどみちる。君の気持ちはどうなんだ。
君の本当の気持ちを、聞かせてほしいだけなんだ。
「……嫌なわけ、ないじゃない」
みちるは、そう言った。
みちると僕の気持ちが通じ合っているとわかった時。僕は堪らなく嬉しい気持ちになり、全身を喜びの感情が駆け抜けていた。
でもみちるは迷い、戸惑う表情をしたままだった。
みちるも依然葛藤し、僕を受け入れるか迷っている――そう、感じた。だから僕は、喜びと同時に押し寄せた悲しみに負け、微笑むことができなかった。
僕はもう、走り出した気持ちを抑えられなかった。
みちるの柔らかい髪の、顔の、皮膚の、唇の、その下に隠している本心を見つけたくて、彼女の上に覆いかぶさる迷いを、やや乱暴に、だけど傷つけないように、剥がしていった。抗おうとしたみちるを押さえつけて前に進んでしまったことに、いささかの後悔は持ったものの、止めることができなかった。徐々にみちるの身体が緩み、僕を受け入れ、甘く息を漏らし、そして僕の名前を呼んでくれることに、驚くほどの興奮を覚えていた。
――ああ、僕はやはり。みちるを求めていたんだ。
葛藤から抜け出せなかったみちるが、ようやく本音を漏らした。
「本当ははるかに、触れたい」
涙を零し、何かと戦いながら悲痛な声で呟いたみちるに、僕もまた、応えた。
「どうせ死ぬなら僕は、君を求めたい」
僕はみちるが決して他の人に見せない、秘めた部分を明かしていった。僕自身も誰かに自分を曝け出したこともなければ、誰かの秘密を見たこともない。そうしたいと思う相手は、これまでに現れたことがなかったから。
みちるは僕の初めての人だ。みちるを前にすると、僕は僕ではいられなくなるし、自分の気持ちを抑えられなくなる。僕が最も求め、愛するただ一人の人だ――。
みちるが一心に僕を感じ、乱れる姿は、とても美しいと思った。ずっと僕の傍にいて欲しかった。それが叶わないのなら、今だけでいい――こうやって互いの体温を感じられる時間だけは、使命のことを忘れていたい。
「はるか、好きよ」
みちるの声が、僕を包む。
「みちる、好きだ」
僕も、みちるを精一杯愛した。
最後に僕たちは、通じ合うことができた。
みちるは最後、僕を強く抱きしめ、僕の前で果てた。