室温の変化とドアを開ける様子で、みちるは自分が連れてこられた場所に気づいた。
「はるか……?」
はるかは黙ったままみちるを下ろして立たせると、その手からワインとグラスを受け取った。そして目隠しをしたままのみちるにキスをする。
はるかの舌が、先ほどより深く口内を探ってくるのを感じた。目隠しをしているせいか、みちるは妙にドキドキするのを感じた。キスをするときはだいたい目を閉じているから、目隠ししていたって関係ないはずなのに。そんなことを考えてしまって、みちるの身体が内側から一気に火照る。
はるかはみちるにゆっくりと口付けながら、ブラウスのボタンに右手をかけた。ボタンが丁寧に外されるのをみちるは感じた。
「……んっ」
みちるが息を漏らしたので、はるかが唇を離した。
「どうした?」
いつもなら視線でも会話できるのに。今日はそれができないから、はるかが耳元に口を近づけて囁いた。みちるは胸を高鳴らせたまま、目元に手を近づけて示した。
「これ……」
取らないの?と、言葉にはしないが、仕草で尋ねる。
はるかは相変わらず耳元で囁くように言った。
「取っちゃっていいの?」
はるかはそう言うついでに、耳を柔らかく食んだ。みちるは驚いて口から息を漏らす。
――わざとやってるのね……。
みちるは気づいて声を上げようとしたが、そうする前にはるかがそのまま耳を舐め出した。喉元まで出掛けた声が、力を失って喘ぎとなって漏れる。
「んっ……あっ」
はるかは耳に舌を這わせながら、半分はだけた胸元に右手を這わせ、下着をずらした。羽で撫でるような手つきで柔らかくそこを包み込む。すでにツンと立ち上がった蕾を摘んだ。みちるは身体の内側を駆け巡るむずむずとした刺激に身体を震わせた。
足が震え、みちるは思わずはるかの首に腕を回した。耳から首に舌を這わせ、身体を探るはるかの存在を感じる。姿が見えないのになぜかその表情ははっきりと目の前に浮かんだ。思わず口からその名を呼ぶ声が漏れる。
「あぁ……はるか……」
はるかがその声に応えるかのようにみちるの口を塞いだ。再び口の中で舌を絡ませる。二人が口内を探り合い、混ざり合う唾液の音だけが聞こえ、妙に耳を刺激する。
視覚が遮られているせいだろうか。普段から人よりも良いみちるの聴覚が、今日は一段と冴えわたっている気がしていた。お互いの息遣いと隙間から漏れる水音に、いつもよりも厭らしさを感じる。
口づけられながら、はるかの手がみちるの腰を撫で、それからスカートに回されるのを感じた。下からスカートをたくし上げ、ショーツの上からみちるの中心部に触れる。そこはすでにはるかのことを待ち侘びるように熱くなっていた。みちるは思わず腰をくねらせる。
はるかはショーツの隙間から指を入れ、みちるの秘部を撫でた。すでに大量の蜜を溢れさせ、はるかを受け入れる準備ができている。はるかの指先にたっぷりと蜜が乗り、はるかの身体も期待感で一気に熱くなった。
「みちる……すごい濡れてる」
はるかはショーツに差し込んだ手をそのままに、身体をやや下方にずらし、みちるの胸の蕾を舌先で舐める。みちるにはその動きが見えず、突然の刺激に思わず軽い喘ぎを漏らした。
「ああ……」
はるかは舌先を器用に動かし、みちるの蕾に触れるか触れないかギリギリのところを往復させた。ショーツに差し込んだ指も、秘部の入口を優しく撫でる。
焦らされるような優しい刺激とは裏腹に、みちるの頭はどんどんと白くなり、神経ははるかの手の動きに集中していく。
「・・はる、かっ……」
あまりの焦ったさに、みちるは思わずはるかがショーツに入れていた手をつかんだ。みちるには見えていないが、はるかは口元を歪めて笑う。そしてみちるの耳元で囁いた。
「何?」
「もう……」
意地悪なささやきに、みちるは顔を上気させた。
「はるかの顔が……見たいわ」
「だめ。もうちょっとこのまま」
みちるの訴えを無視して、はるかは掴まれたままの手の指先を再びみちるの中心で動かし、その先にある硬い蕾を撫でた。みちるがびくっと身体を動かす。足の力が抜けかけ、後ろにある壁にもたれかかった。
はるかの手首を握っていたみちるの手に、無意識に力が入った。みちるの入口を触れているはるかの手は、みちる自身によってその中心に強く押し当てられる。
「欲しいならちゃんと言って」
再び、はるかがみちるの耳元で囁いたその時。
みちるはびくり、と身体を動かした。はるかもはっとして動きを止める。
はるかの背後で、ドアを開け、スリッパを引きずるような足音が聞こえた。歩幅と音からして、おそらくほたるである。
トイレのために目が覚めたのだろうか。パタパタと歩く音はだんだんとこちらに近づいてきた。
はるかとみちるはじっと息を殺し、耳を研ぎ澄ませる。
「ほたる。大丈夫ですか?」
不意にせつなの声が廊下に響いた。足音が止まる。
「トイレ。一人で大丈夫よ」
ほたるの声が聞こえた。まさしくはるかとみちるのいる空間の目の前で立ち止まったようだ。
せつなはほたるが誤ってリビングに行かないように、と気を遣って声をかけたのだろうけど、今回ばかりはタイミングが悪かった。
「あれ?ここ、電気つけっぱなしみたい……」
ほたるがこちらに向かって言うのが聞こえた。はるかは息を呑み、みちるの背中には冷えるような感覚が走った。
「はるかパパ?みちるママ?」
ほたるが呼びかけてきた。二人が中にいると思ったのだろう。
――ここは返事をするべきか、黙っているべきか。
はるかとみちるが迷っていると、少し経ってから再びほたるの声がする。
「やっぱり消し忘れかぁ」
パチン。
軽い音と共に、はるかとみちるがいるその部屋の灯りが消された。
「ほら、ほたる。寒いから早くトイレに行って寝ましょう」
「はーい」
やや焦りも含まれたせつなの声に促され、ほたるはそこから立ち去った。
みちるはほっとして、ふぅ、と息を吐いた。
しかしそれも束の間、先ほどまであれほど焦らされたみちるの中心部に、急にはるかの指が入ってくるのを感じた。
「はるか?!」
思わず小声で叫ぶようにはるかの名を呼ぶ。はるかがもう片方の手でその口を塞いだ。
「静かに」
はるかはそう囁きつつ、みちるの中を混ぜ始めた。急な刺激にみちるはどうすることもできず、塞がれた口から息を漏らす。
「んっ……あっ……」
隣でほたるがトイレのドアを閉めたと思しき音がした。はるかはみちるの中に二本の指を入れ、内壁を何度も擦る。みちるは唇を噛み締めた。はるかの背中に回された手、それからはるかの手を掴んでいる方の手、それぞれに力が入り、はるかの肌に爪がくい込む。
「ああっ……だ、め……」
塞がれた口から、熱い息とともにくぐもった声が漏れた。
部屋が暗くなったため、みちるの表情はよく見えない。しかし手の内側にかかる熱い息だけでも、はるかは十分に気持ちが昂り、身体が熱くなるのを感じていた。
静かな空間に水音だけが響く。共に視界が十分でない二人の耳に、音だけが際立って伝わる。
はるかは一度みちるの秘部から指を抜き、ショーツを剥ぎ取った。そして素早くみちるの片足を持ち上げて自分の肩に乗せる。
トイレの水が流れる音がして、間もなくドア開けてほたるが出てくる音が聞こえた。
パタパタという足音を聞きながら、はるかはもう一度、みちるに指を押し込む。
「……んんっ」
強い刺激と共にみちるの目から涙が溢れ、ハンカチを濡らした。
「ほたる、何をしているんです?」
せつなの声が聞こえた。みちるは再びはっとしたように身体を震わせたが、はるかは躊躇いなく手を動かした。
「お水飲みたくなっちゃった」
ほたるはそう答える。声の聞こえる位置からして、リビングに向かったようだった。
みちるにはもはやほたるの動きを気にする余裕は全く残されていなかったが、辛うじて働いた理性で唇を噛み締め、声だけを必死に抑え続けていた。
「待って。水なら……そこのクローゼットにペットボトルがありますから。
冷蔵庫の水だと冷たすぎるでしょう」
せつなが上擦った声でほたるを止めるのが聞こえた。
はるかとみちるの所在がはっきりわからない以上、ほたるを歩き回らせずに一刻も早く寝室に戻したいという思いかもしれない。
はるかはせつなの配慮に心の中で感心しながら、みちるへの愛撫を続けた。
「ああ、こっちにもお水あるんだったっけ」
ほたるが呟き、リビングの手前のクローゼットを開ける音がした。せつなもそちらに向かったらしく、はるかとみちるのいる部屋の前を通る足音が聞こえた。
「暗いからよくわかんないなぁ……」
「ちょっと待ってくださいね」
二人が水を取るのに手間取っている間に、みちるははるかによって高められ、限界に近づこうとしていた。大きく首を振り、はるかにそれを伝える。
「も……だめ……」
ほたるとせつなが水を取り寝室へ戻るらしく、すぐ後ろを足音が通った。まもなく、寝室のドアを閉める音がする。
「あ」
はるかが何かを思い出したように手を止めた。
「まだちゃんと聞いてなかった」
はるかは塞いでいたみちるの口から手を取り、目隠しをしていたハンカチを下ろす。暗がりだが、みちるが潤んだ目をゆっくりと開け、はるかを見つめ返すのがわかった。
「欲しいならちゃんと言って?」
みちるは抑えていたものを吐き出すように大きく肩で息をして、精一杯の非難を込めてはるかを睨む。
「いじわる……」
はるかにとってはその言葉も視線も、全く非難と捉えられるものではなかったけれど。みちるの軽く汗ばんだ額を撫でて口付けて、みちるに促すような視線を送る。
耐えかねたみちるが、絞り出すように言った。
「はるか……お願い……。はるかが、欲しいわ」
返事の代わりにみちるに軽くキスをして、はるかは止めていた手を再び動かした。待ち望んでいたみちるの内部が、はるかを受け入れてひくひくと震えた。
「ああっ、んっ、だめっ、やっ……ああっ……」
先ほどまで抑え続けたすべての喘ぎを放出するかのように、みちるが高い声をあげた。はるかの肩に回された手は、爪が白くなるほどにぎゅっと握られる。
ほどなくしてその声は極限まで高くなり、喉の奥から声にならない声が絞り出された。みちるは全身ではるかをぎゅっとつかみ、極限に達したことを伝える。
息を乱しながら、はるかはみちるの耳元で囁いた。
「ありがとうみちる、最高のプレゼントだった……」
はるかが指を抜くと、みちるから出た蜜がとろりと落ちる。力の抜けた二人は、ずるずると床に座り込んだ。
「シャワー、浴びようか……」
乱れた息が落ち着いてきたころ、はるかが呟いた。背後にあるスイッチを押すと、浴室の灯りが点く。こちらにも漏れてきた灯りで、暗かった脱衣所もぼんやりと照らされた。
「なんでこんなところに……」
みちるが不満げな声を発すると、はるかがああそうだ、と、ラックに置き去りにされたワインを示す。
「お風呂ならワインが零れても怒られないかなと思って」
「これは?」
みちるは首元を指さした。目隠しに使われたハンカチがぶら下がったままになっている。
「どこに連れていかれるか分からない方が面白いじゃないか」
ニヤリと笑いながらそう言うはるかに、みちるが呆れたようにため息をついた。
「ごめん。
ねぇ、やっぱりシャワーじゃなくて今からゆっくりお風呂に入る……?」
はるかが甘い囁きと共にみちるに軽くキスをした。
「バカね……」
言葉とは裏腹に、みちるは妖艶さを湛えた表情ではるかを見つめるのだった。