気がつくと、背後にいたはずのプリンス・エンディミオンも、周囲にいた戦士たちもいなくなっていた。ぐるりと周りを見回して、はっとする。
先ほどまで荒れ果てた様子だったシルバー・ミレニアムの跡地に、かつて栄えていた頃のように太い石柱が立ち並びんでいる。枯れていた池には水が満ち、たくさんの植物も植えられている。ドーム上の屋根を携えた王宮がその後ろに建っていた。
「ここは……まさか」
クイーン・セレニティによって一度見せてもらった、遥か遠い昔に滅びる前のシルバー・ミレニアム。あの光景が今、目の前に広がっていた。
なぜ、シルバー・ミレニアムが。
思わず王宮に向かって走り出した。
廃墟の王宮は冷たく無機質で寒々しい様子だったが、滅びる前はとても温かく柔らかな雰囲気を纏っていた。正面の入口から中に入る。
王宮に入るのは初めてだったが、なぜか身体が勝手に動いた。どちらに進めば良いのかわかっている。長い廊下を一心に走っていった。その先にあった重々しい扉を、身体ごと思い切り押し開ける。
中には誰もいなかったが、部屋の中心に真っ直ぐ入っていった。中心には台座があり、上からそれを覗き込む。中には何も置かれていなかった。
その意味は、わかっていた。
大きく息を吸い込んで、両手を前に広げる。何もない手のひらの上に、光が集まってきた。光は花を咲かせるように放射状に広がり、やがて花の結晶の形となる。銀水晶の結晶だ。
手のひらの上に浮かぶ結晶を台座の上に掲げて、手を離した。銀水晶が沈み込んでいくように台座の上に収まる。
――おかえりなさい。
シルバー・ミレニアムが、銀水晶を受け入れた――。