「うさぎ!」
「うさぎちゃん!!」
プリンスに支えられながら倒れ込んだプリンセスを、八人の戦士が取り囲んでいた。全員が必死に声をかける。
プリンスがプリンセスに顔を近づけた。
「生きては、いる。だが意識がない」
堅い顔でそう呟いた。
プリンセスが掲げていたはずの銀水晶は、いつの間にか手のひらから消えていた。頭上を覆う光のドームも、プリンセスが倒れると同時に消滅していた。
「ああ……うさぎちゃん」
「銀水晶はどこへ……」
内部太陽系戦士四人が涙を浮かべて混乱した様子でうさぎの名を呼ぶ。その背後を取り囲むように外部太陽系戦士が立ち、様子を見ていた。
「月のエネルギーの気配が……消えたわ」
全員の視線がプリンセスに集中していたが、突如ネプチューンがはっとしたように囁き、周りを見回した。プリンセスの様子を伺うのに夢中だったマーキュリーが、慌てて開きっぱなしだったコンピュータを覗く。
「月から溢れていたエネルギーが……消えたわ」
コンピュータの解析結果には、エネルギーのパワーバランスを表した図が表示されていた。プリンセスが持っていた銀水晶の力が膜のように月全体を覆い、月から溢れ出るエネルギーを抑えきった様子が描かれている。
「じゃあ、成功したんだ」
ジュピターがプリンセスの右手を取り、涙ぐみながら呟いた。
「でも……こんなのあんまりだよ。うさぎちゃんが」
マーズがその手に自分の手を重ねる。
「本当よ。うさぎ、あんたが一番先に倒れてどうするのよ」
ヴィーナス、マーキュリーがさらにその手に触れた。
「うさぎちゃん」
――みんな、あとはよろしくね。
重ねた手を通じて、四人に優しい声が流れ込むのを感じた。四人ははっとして顔を見合わせる。プリンセスは相変わらず意識がなく、表情は変わらない。穏やかな顔で目を閉じて横たわっている。
「今の、うさぎちゃん?」
涙でいっぱいの目を瞬かせて、四人の視線はプリンセス、そして他の戦士の顔に泳いだ。戸惑っている各々の視線がぶつかり、自分に聞こえてきた声が決して幻聴ではなかったことに気づく。また新たな涙が溢れてきた。
ヴィーナスがグローブをしたままの手で涙を拭った。
「そうね。私たちもやることがあったわ」
「うさぎちゃんの頑張りを無駄にしてはいけないわね」
ヴィーナスの言葉に、マーキュリーも続ける。四人が顔を見合わせて頷いた。背後で様子を伺っていた外部太陽系戦士たちも、その様子を見て頷く。
「私がここに残るから、後を頼む」
プリンスが皆に向かって声をかけた。その言葉に、戦士たちは再び頷いた。
「呼ばれているのを感じるな」
ウラヌスが宇宙空間を見つめて呟いた。視線の先には無数の星々が広がっている。ネプチューンも頷いた。
「ええ。呼ばれているわね」
「行くぞ」
ウラヌスが身を翻してその場を去り、ネプチューン、サターンが続いた。プルートはまだ残りの戦士とプリンス、プリンセスの様子を見ていた。
それから、跪いてプリンセスの様子を伺っていた四人の戦士が立ち上がる。
「行きましょう」
マーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスが、その場を後にした。
最後まで残ったプルートは、横たわるプリンセスの顔を見つめていた。プリンスの膝と腕の上に横たわるようにしてプリンセスは眠っている。
「必ず……戻ります」
二人にそう声をかけ、プルートもその場を後にした。
静寂に包まれた空間に、プリンスとプリンセスだけが残された。プリンスは全員の無事を祈りながらプリンセスの手を握り、その場に佇んでいた。