全員の意思が一致したところで、うさぎがコンパクトを手に乗せ、皆の方に差し出した。
「みんな、いい?」
全員がうさぎに向かって頷いた。ポケットから各々ロッドを取り出して掲げた。それぞれが変身の言葉を唱える。
全員が一斉に変身し、境内は眩い光に包まれた。ルナとアルテミスが一瞬その光から目を逸らし、そしてまた視線を戻すと、そこには九人のセーラー戦士とタキシード仮面が揃っていた。
「久しぶりだな、この姿で全員が集まるの」
ジュピターが戦闘服姿になった全員を見回し、やや照れたような顔で呟いた。
「あら、あたしは仕事でも着てるわよ?」
笑いながらそう返したのはヴィーナス。
「美奈子ちゃんが仕事で着てるのは衣装でしょ」
マーズがつっこんだかと思えば、マーキュリーが恥ずかしそうに俯いてぼそりと言う。
「よかったわ、太って着れなくなったりしなくて」
「亜美ちゃんは大丈夫でしょ!」
ジュピターがすかさずフォローする。
久しぶりの戦士姿に騒ぐ四人の戦士達を横目に、ウラヌス、ネプチューンはサターンの戦士姿を見て驚いていた。
「ほたるは、身長が伸びても大丈夫なんだな」
サターンは細部のデザインはそのままに、身長に合わせたサイズの戦闘服に身を包んでいた。
「そうみたい」
サターンが照れたように笑いながらそう返した。
「似合っているわよ」
ネプチューンもその姿に微笑む。
「みんな」
盛り上がっていた全員に、セーラームーンが声をかけた。傍にはタキシード仮面がついている。
緩んでいた皆の顔が引き締まった。セーラームーンが空を見上げる。
不思議なことに、あれほど厚くかかっていた雲に切れ間ができていた。隙間から月明かりが差し込んでくる。十人は徐々に姿を表す月の明かりに、スポットライトのように照らされていった。
「月が見えるわ」
レイが呟いた。
「もしかしたら月も、銀水晶が戻ってくることを待ち望んでいるのかもしれないわね」
みちるが言った。
セーラームーンは月を覆う雲が全て晴れたのを見てから、再び正面に向き直った。左右に手を差し出す。横にいたタキシード仮面、マーズがその手を取った。そこから順に全員が輪になって手を繋ぐ。
「みんな」
「気をつけて」
輪の外側から、ルナとアルテミスが心配そうな声で呟いた。セーラームーンが二匹に向かって告げる。
「行ってくるね」
セーラームーンの言葉を合図に、全員が目を閉じた。光に包まれ、十人の身体がふわりと地面から浮き上がる。全員が心の中で共通の思いを念じる。
――月へ。
それから光が強く大きくなったかと思うと、一瞬の閃光を残して十人の姿は消えた。火川神社にはルナとアルテミスだけが残され、静寂が戻った。