全員に見つめられながら、せつなは話し始めた。
「幻の銀水晶は、遥か太古に、月から生まれました。幻の銀水晶は、月の中から掘り出されたものなのです。地球でも地中や岩石の中から鉱石を掘り出すことはあるかと思いますが、それと同じように、月の岩石の中から掘り出されたものなのです。
私も、聞いた話なので直接掘り出すところを見たわけではありませんが……それほどの大きさは、後にも先にももう掘り出すことができないだろうと言われていたのを聞いています」
せつなはうさぎが持つコンパクトを指差しながら言った。せつなを見つめて話を聞いていた全員が、今度はコンパクトに注目した。
「幻の銀水晶が……」
「月から掘り出された……」
誰からともなく、せつなの説明を反芻し、呟く。
皆の反応を待つように一呼吸置いたせつなが、再び口を開いた。
「その大きさの銀水晶を月から取り出すことはもう困難ですが、月の中にはまだまだ銀水晶と同じ成分がたくさん眠っているそうです。ひとつひとつは小粒だけれど、月に眠る全ての銀水晶の結晶を合わせると、とても大きな力となる。
つまり……月全体が、大きな銀水晶そのものと言ってもいいくらいのパワーを秘めています」
「月にも銀水晶と同じパワーがあるんですか……?」
うさぎは両手に包み込んだコンパクトの銀水晶を見ていた。周囲が暗いのにもかかわらず、まるで自ら発光しているかの如く、わずかな煌めきを放っている。
せつなは頷いた。
「シルバー・ミレニアムの人々は長命だったでしょう。あなたが手にしているその銀水晶だけが王国を守っていたわけではないのです。月そのものの力で、王国は守られていました」
「じゃあ今、月から感じるエネルギーというのは……」
亜美が空を見上げた。
「ええ……。間違いありません。銀水晶の力を持つ月が発するエネルギーです」
せつなが静かにそう告げた。
「ここからは私の推測になりますが……私たちがセーラー戦士として戦ってきた日々を思い出してください。多くの敵は銀水晶やセーラームーンを狙って攻撃を仕掛けてきました。
今回の地球上での敵のエナジーの暴走……あれは、月から銀水晶と同じパワーが発せられたことで、地球で休眠状態にあったエナジー達が、かつての標的であった銀水晶やセーラームーンの存在を思い出して目覚めてしまった。その可能性が非常に高いです」
「なるほど……。敵が暴走した理由はわかった。
じゃあ、なぜそのエネルギーが今、月から発せられているんだ?」
頷きながら聞いていた衛が、新たな問いを投げかけた。せつなが軽く顎を引いて頷く。
「月全体が持つ銀水晶の力は、プリンセス、あなたが持つ銀水晶によって守られていました。クイーン・セレニティが持つ銀水晶も月も、いずれも強大なパワーを持っているので、互いに力を抑えあっていた……。
しかしシルバー・ミレニアムは崩壊し、長い年月を経て、現在銀水晶は地球にある……。
つまり、月は今、何にも守られず、その強大なパワーを宇宙に放出し続けているということです」
せつなはそこで一度言葉を切る。そしてやや俯き、次の言葉を続けた。
「そして私が研究してきた今回の太陽系の惑星の変化……
これも、おそらく強大な月の力が引き起こしたものです」