全員が一瞬、声も上げず音も立てず、息を呑むようにしてせつなの言葉を受け取った。
しかし直後、それぞれの顔に驚きが広がる。
「え……?」
「なんだって……?」
全員が戸惑い、動揺の声をあげる。
彼女達の気持ちを象徴するかの如く、神社の境内にすうっと風が流れた。十二月らしからぬ生ぬるく暖かい空気は、どんよりとした空からそのまま地面に落ちてきたかのように、重く湿り気を帯びていた。
せつなは皆の反応に対し、黙って俯いていた。その表情からは、悲しみと憂いが漂ってくる。
「でもそれなら……なんでこのタイミングで影響が出始めたんですか? うさぎちゃんが地球で銀水晶を使うようになってから、もう何年も経つと思うんですけど」
まことが疑問を口にした。せつなはふっと微笑む。
「月の長い歴史に比べれば、この数年の出来事など一瞬のことです。
おそらく銀水晶と月のバランス自体は、シルバー・ミレニアムが崩壊した時点ですでに崩れていました。長い年月をかけ、月は強力なパワーを発し続けてきたのです。
もちろんそれは、悪い影響だけ与え続けたわけではありません。昔から人々は月から神秘のパワーを受けて暮らしてきた。月を見て未来を占い、月を思ってたくさんの歌や物語が詠まれたでしょう。月の満ち欠けに合わせて海の満ち引きも変わりますし、人間のバイオリズムに影響するという話もありますね」
せつなは何かに思いを馳せるような表情で上空を見つめた。その視線の先には、まるで月が見えているかのような。そんな表情だった。
「それでも、今まで月が太陽系の惑星に対して悪影響を及ぼすような状態ではなかった。
まさか……まさかこうやってバランスを崩してしまうことがあるなんて……想像だにしなかったのです……」
せつなはそこで初めて表情を崩した。右手で顔を覆い、声を乱す。
「私は……クリスタル・トーキョーという未来がやってくると信じて疑わなかった……だからこの異変に気づくことができませんでした……。すみません、皆さん……」
「せつなさん……」
「あなたが責任を感じることではないわ、せつな」
せつなの両脇にいたレイとみちるが、それぞれせつなの肩に手を置き、腕を取る。他のメンバーもそれに同意するように頷いていた。
「大事なのは、これからどうするか、じゃないのか。せつな」
はるかが一歩前に出て声をかけた。せつなは自らを覆っていた手を外し、顔を上げる。自分よりやや背の高いはるかが目の前に立ち、見つめていた。その表情は、かつて使命遂行を第一としていたあの鋭い目つきを思い出させたが、それでいてどこか柔らかく、慈しみも感じられる。
状況に不釣り合いだとは思ったが、せつなははるかがそのような表情をするようになったことに対して、驚きと新鮮さを感じていた。
せつなは唇を噛み締め、改めて全員の顔を見回す。皆がせつなを見つめ、そして温かい視線を送っていた。
「そうでしたね。失礼しました」
せつなは再び姿勢を正した。
「ここからは、この先どうするかという話をしなければなりません」