亜美は夜勤を明ける直前、忙しなく病棟を歩いていた。
最近は気候の変動が激しいせいか、急な体調不良を訴える患者が増えた。昨日は大停電が発生したというニュースが入ったせいもあり、それを聞いてから不安定になった患者もいたようだ。亜美も数名の患者のところへ足を運ぶことになった。
「もう地球もあと何年もつか、ってところだし、残りの人生は退院して好きなように暮らしてえな……」
「あなた、お若いのにこんな世の中で大変ね……私なんてもう、黙っていてもお迎えが来るのを待つだけだから、特に未練はないのだけどね……」
患者が呟く一言にドキリとさせられることも何回かあった。皆、詳細を知らなくとも不安に思う気持ちはあるのだ。
亜美は、ふぅ、とため息をついた。ひとまず今日は普段どおり帰宅できることになったが、今後は状況も変わるかもしれない。帰宅してゆっくり休んだほうが良さそうだ。
ふと、せつなのことを思い出した。頭がよく聡明で、プリンセスであるうさぎやちびうさを温かく見守ってきた、頼れるお姉さんのような存在。本人は脇役に徹しているようだったが、亜美は密かに彼女を影のリーダーのような存在だと思っていた。せつなは今頃寝る間も惜しんで研究に追われているのだろう。
更衣室に戻り自分の鞄を覗くと、整頓された鞄には分厚い参考書と、かつてセーラー戦士だった頃に毎日のように使っていたミニコンピュータが見えた。戦士としての戦いが終わってからほとんど触れることはなくなったが、今でも毎日持ち歩いている大切なものだ。
長らく使っていなかったコンピュータにそっと触れた。戦士として戦っていたころ、これを活用して数多くの敵の正体を掴んだり、アジトに潜入したりのを思い出す。
――私もせつなさんの役に立ちたい……。
せつなのように専門的な研究や勉強をしているわけではないので、自分にできることがあるのかはわからないが……こんな状況を黙って見ているわけにはいかない。
「……うん。やらなくちゃ」
亜美は呟き、鞄を持ち上げて更衣室を出た。