その後寝るまで、はるかはみちると顔を合わせることができず、自室に篭っていた。
この家にベッドルームはひとつしかない。はるかの部屋にはほとんど物がなく、一晩過ごすには固い床の上で寝る他ない。リビングのソファで寝てしまおうかと思ったが、翌朝みちるが先に起きればリビングで鉢合わせをすることになり、それはそれで気まずい。それならば今晩はみちるが寝た頃にこっそりベッドに入ることでやり過ごそうと、はるかは深夜になるまで待ってからようやくベッドルームに向かった。
広いベッドで先に眠っているみちるの影は、小さく、華奢だった。その背中に悲しみを負わせてしまったことを感じ、はるかは目を逸らす。起こさないようそっと、ベッドに入った。
今晩眠っている間に、身体がすっかり元に戻らないだろうか。原因がわからないのだから、戻るきっかけももちろんわからない。だから今は、ただ祈るような気持ちで眠るしかなかった。
どれほど時間が経っただろうか。寝付ける気配もなく暗闇を見つめていると、ふと、その背中に動く気配を感じた。ずっと起きていたのか、それとも起きてしまったのか。
「はるか」
呼びかけられたが、はるかは応えず、背を向けていた。明るい場所で身体をさらけ出していた時ほどの気まずさは感じないが、なんとなく顔を向けづらかった。
やがてはるかの背に、みちるが近づく気配がした。静寂するベッドルームに、わずかな衣擦れの音が響く。はるかが思わず身を固くした瞬間、みちるの指先が遠慮がちに肩に触れた。
触れないで欲しい。近づかないで欲しい。指先が触れた一点から、全身に広がるざわざわとした気持ち。みちるその人への拒否感ではないのにそんな気持ちを抱いてしまっていること自体に罪悪感でいっぱいになる。
「ごめんみちる、でも僕は……」
必死に堪えて、バスルームの時のように振り払うような仕草は見せなかった。手を伸ばし、みちるが触れた指を掴んで、やんわりと避けようとする、が。
はるかが伸ばした指先を、みちるが捉えた。細い指ははるかのそれに絡み、きゅっと握られる。はるかの体勢が悪く力が入りづらい状態にしても、その華奢な身体のどこにそんな力があるのだろうというくらい、指先はしっかりと絡みついていた。
はるかは一瞬悩んだが、振り返らなかった。手を振りほどくこともしなかった。ただみちるに任せ、手を握られていた。みちるも何も言わず、動かず、ただはるかの手を握っていた。
時間感覚を失うほどに暗く静かな夜だった。静かに脈打つ身体の音が聞こえるようだった。これほど大きな変化を受けながらも、身体は今まで通り息づいている。はるかはそれがどこか不思議なことのように感じた。
やがてはるかは、ぽつりと一言口にした。
「僕は僕なりに、自分の愛し方をわかってきたつもりだったんだ」
なぜ、自分の身体を受け入れることができないのか。みちるに曝け出すことができないのか。
もちろんどんな人間であれ、自分の姿がいきなりまったく違う状態に変えられていれば、混乱して当然だ。一日やそこらで受け入れることができないのは当たり前かもしれない。
しかしそれにしても、はるかは実際に自分の身がこのように変化して、これほどの嫌悪感を抱くとは思っていなかった。今まで自分が、女性としての身体にこだわっていたとも思えなかったからだ。
そして一つの答えに行き着く。
男になることを強く望んだことはなかったが、女であることもまた、心から納得しているとは言えなかった。白か黒か、どちらか片方を選びはっきりさせることを必然とする世界が、どうしようもなく憎く感じたこともあった。男であっても女であっても自分は自分なのに、どこかの型に嵌めて計ろうとする人々に、疎ましさを感じた。どちらかであることにこだわらない、天王はるかは天王はるかでしかないという姿勢を貫き体現することで、初めて周囲のノイズを消し去り、自分を受け入れることができたように感じた。
さらにその後、みちると出会った。みちるははるかのありのままを愛した。みちるが愛しいと言った心、美しいと言って愛でた身体は、はるかにとってかけがえのないものに思えた。
「みちるが僕を愛してくれたから、僕は自分を愛せるようになったんだ」
その身体を失うことは、思いがけない喪失感をはるかにもたらした。
みちるがはるかの背後でまた、動く気配がした。絡めた指をそのままに、背中にぴたりと温かいものが触れる。みちるの柔らかな身体が密着したのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
はるかの脳内に、バスルームでの出来事が過ぎる。一瞬でまた、身体が熱を持ち始めた。あの・・感覚が身体を巡る。
はるかの変化に気づいているのかいないのか、みちるは自らの身体をぐっと押し付けた。大きな膨らみがはるかの背中に触れながら形を変える。足は、はるかに沿うように滑らかに寄せられた。
はるかは思わずため息を漏らしそうになった。みちるを、抱きしめたい。みちるに、触れたい。だけど――。
「みちる、ダメだ。僕はもう、今までとは違う」
胸が高鳴るのを感じた。みちるのことを感じれば感じるほど、自分が制御できなくなる、そんな気がした。
「違ってなんかない」
みちるの声が、はるかの耳許ではっきりと響いた。
「はるかははるかよ」
みちるはずっと握っていたはるかの手を離した。その手は前に回り、はるかの平らな胸元を撫でる。確かめるよう、優しくも迷いのない手つきにぞくりと震えが走った。それから腰へ。女性であった時よりもやや緩やかになった曲線をなぞり、下腹部へ降りていく。
「……っ、それ以上は」
思わず熱い息が漏れたところで、はるかは慌ててみちるの手首を掴んだ。身体を起こし、みちるの方を向く。はるかをしっかりと見据えるのが、暗闇でもよく分かる。蒼い瞳が不思議なくらいに輝いて見えた。
どうして? みちるの瞳は、そう言っているように見えた。はるかは身体に籠る熱を逃すかのように深くため息をついた。何故みちるが平気で自分に触れられるのか、むしろこちらが問いたい、そんな気持ちだった。
「今の僕は今までとは違う。みちるを傷つけてしまうかもしれない」
制御出来ない身体。自分の意思に反して動くモノ。いくらみちるの身体がはるかを受け入れるのに慣れていても、この異物をみちるが受け入れるところをはるかは想像できなかった。
そしてこの状態、つまり男女としてみちると身体を重ねることとなれば、否応なしにその先に待つ危険が想起される。
「傷、ね。あなたはそう思うのかもしれないけれど」
みちるも身体を起こし、まっすぐにはるかと向き合った。射るように見つめられ、はるかは思わず目を逸らした。
はるかはわかっていた。みちるがそれを気にしないことを。みちるを傷つけると思っている行為が、彼女にとってはそうでないことを。ともすれば過ち・・が起きてしまうことも、むしろ長い目で見たら喜ばしいとすら思えるのかもしれない。もちろん、はるかが現状を受け入れていない状況で、みちるがそれを喜ぶほど非道だとは思えないが。
「でも……そうね。はるかが望まないことを、私も望もうとは思わないわ」
はるかの想像通りの言葉を呟いて、みちるも俯いた。
ベッドルームに静寂が戻った。ベッドに座ったまま、はるかを見つめるみちる。みちると目を合わせないはるか。昨日までここは、ただ愛を語り確かめ合うだけの場所だった。まさか愛し合った次の夜に、すれ違う互いの気持ちを吐くことになるとは、思いもしなかったのだ。
みちるは手を伸ばした。目を逸らしたままのはるかの頬に添える。気配に気づき、はるかは顔をあげた。覗き込む蒼い瞳は、清水をいっぱいに湛えた泉のように潤んで見えた。対してはるかの瞳は、深い絶望の沼の底のようだった。
吸い込まれるように目を閉じる。連なるようにみちるも目を閉じた。どちらからともなく近づく。熱い息遣いを間近に感じたかと思ったら、次の瞬間には二人の唇が重なっていた。
たった一日、みちるを避けていただけなのに、その口付けはとても懐かしく優しいものに感じられた。そしてどこかほっとしていた。身体の性的感覚が今までと変わってしまったようだったのに、キスの味は変わらないのだと思ったから。
みちるがはるかに手を伸ばし、首に腕を絡めた。はるかもみちるの腰に腕を回し、抱きしめるように寄せる。いつもであればみちるのふっくらとした胸の膨らみに、はるかの少し小さな膨らみが触れ、交わるような柔らかさを感じるのだが、今日は違った。ただみちるの身体は弾けるような弾力と柔らかさを湛え、はるかの身体は筋肉質で少し固さすらも感じた。
唇が離れる。蒼と翠の瞳が重なり、はるかははっとした。
なぜ、あれほど精一杯に堪え、みちるを拒否していたのに、唇を重ねてしまったのだろう。なぜ前に進んでしまったのだろう。
慌ててみちるを突き放そうとした。が、身体が動かなかった。みちるがはるかを覗き込んだままそっと耳許で囁く。
「大丈夫よ、はるか」
そこから、みちるはベッドに吸い込まれるように後ろに倒れた。あるいは、はるかが押し倒したのかもしれないが、はるか自身はまったくそんな意識がなかった。頭がぼーっと霞んで熱く、下腹部も同様に、強く何かが滾るのを感じていた。
気づけばはるかは、貪るようにみちるの唇に吸い付いていた。みちるの両手首をベッドに縫い付け、深く舌を押し込む。みちるが苦しそうに身を捩った。
「んっ……むぅ……ふぅ」
息継ぎの暇も与えないほどに強く、口内を荒らす。暴れ回るはるかの舌に、みちるの舌が絡み、離れ、また繋がる。堪えていた不満をぶつけるかのような荒々しさに、みちるは息が上がったことによるものとは別の、激しい胸の高鳴りを覚えた。
これほどに熱く濃厚な口づけは初めてかもしれない。まるで、何千年も会えなかった恋人と再び巡り逢ったかのよう。そんな想いがみちるの頭を掠めたころ、名残惜しむようはるかの唇が離れた。二人の間で透明な糸が煌めく。
はるかの鋭い目線がちらりと目に入ったかと思えば、次の瞬間にはみちるの首に向けて顔が埋められていた。絶え間ない刺激に、みちるは思わず喉を逸らし、絞り出すような声を上げる。
「あっ……ぅっ、ん、あぁ、はる、か……んっ」
今までのはるかはみちるを、大切なものを扱うよう優しく抱いた。それは初めて繋がった時もそうだし、身体を重ねることに慣れてからも変わらない。多少の緩急や悪戯心から焦らすような仕草はあれども、激しさや荒々しさはほとんど見せなかった。
だけど今はどうだろうか。はるかはまるで獣が貪るようにみちるに吸い付いていた。それは間違いなく、今までのどのはるかよりも本能的だった。
理性を失ったとも言えるその行為は、ともすれば痛く、みちるを傷つけることにもなりかねなかったが、彼女自身は決してそうは感じていなかった。例え本能優位であってもはるかの元々の性格がそうさせなかったのかもしれない。しかしそれ以上にみちるが、これほどに情熱的に求められることに高揚感を感じていたのだ。
「んんっ……はる……あぁっ、はるか……ぁ、んぅ」
みちるはただひたすらに、はるかの名を呼んだ。はるかはそれに応えるよう、激しくみちるの首から鎖骨、胸元にかけて花弁を落としていく。息継ぎの間も惜しみ、手探りでやや乱暴にネグリジェのボタンを外し、その下で上下するみちるの胸をさらけ出した。下着を掴んで上にずらせば、解放された大きなふたつの膨らみがふるりと溢れ出る。色付いた蕾はツンと立って主張していた。いつもは段階的に慣れさせるよう優しく指先で触れるが、今日のはるかは迷わずそこにかぶりついた。
「ひゃんっ! あっ、はる、ああっ、はぁん!」
急な鋭い刺激に、みちるは背中を反らしながら応えた。先ほどまで首にすがりついていた腕は下ろされ、指先は必死にシーツを握っている。
ぬるりとした舌が、みちるの蕾の上を行き来していた。時折それはきゅっと鋭く吸われ、かと思えば優しく撫でられ、緩急をつけた動きにみちるの頭はクラクラと熱く揺れる。空いた方のふくらみも柔らかく揉みしだかれ、先端は指先で器用に摘まれた。
「ふぁ、ああっ……んあっ、あっ!」
一際高く鳴いたその瞬間、不意にみちるの脳内に、ビジョンが過ぎった。
暗い石造りの天井。青白く冷たい光に晒された寝室。自分を組み敷く影。さらさらとした金髪が動く。よく知っている人だ。でもはるかではない。自分がずっと焦がれていた人。そう、これは――――。
みちるは喘ぎに溺れて瞑っていた目をぱっと開けた。ビジョンと同じく暗い天井が見えたが、石造りではなくマンションの天井だった。一瞬にしてビジョンは消え去った。
一体なんのビジョンだったのだろうと思ったが、その疑問は絶え間なく続くはるかの愛撫によって瞬時に脳内から掠め去られていく。
荒々しくありながら、はるかの愛し方は丁寧だった。みちるの身体には満遍なく花弁が散りばめられ、はるかは少しずつ下腹部に向けて下りていく。きゅっと閉じられていたみちるの足を恭しく広げて持ち上げると、ネグリジェと下着を取り去り、内腿にも愛の印を刻んでいく。そのままの流れで中心の泉に舌を忍ばせた。余韻なく与えられる刺激に、みちるの腰が跳ねる。
「あっ……ああっ! はるか、まっ……やぁっ……んっ」
舌先が、みちるの中心に隠れていた蕾を誘い出すように動いた。その誘いに乗るかのように導かれた蕾を、はるかは吸った。泉から溢れる蜜で、はるかの口許はあっという間にしっとりと濡れる。みちるのそこは、既に溢れかえるほどに濡れそぼっていたが、泉からはまだ絶え間なく蜜が溢れ続けていた。
清めるよう周囲を舐めとってから、唇をあてがったまま中にゆっくりと指を入れていく。いつもよりやや早急ながらも、期待感と高揚感ですでにみちるの身体は受け入れる状態になっており、すんなりとはるかを受け入れた。
「んんっ! はぁ、あぁ、ん……あっ」
慣れないペースで進むことに、みちるは時折高く鋭く声を上げたが、それは今、はるかを躊躇わせるどころか、互いの興奮を煽る要素にしかならなかった。みちるの蜜壷ははるかの細長い指をあっさりと飲み込みながら、ひくひくと疼き、さらに奥へ誘い込む。舌先での愛撫も続けながら、はるかは指の動きを早めた。ぴちゃぴちゃと舌が動く音と中をぐちゃぐちゃと掻き回される音が混ざり、羞恥を煽る音として暗闇に響く。
「はあっ! んっ、はるかっ! ああっ、私、もう……」
はるかが奥より少し手前、みちるの柔らかく感じる場所を擦ると、みちるの中はひくひくと締まり、限界の近さを知らせた。みちるが感じている様子を直に受ける悦びから、はるかは僅かに口角を上げたが、当然みちるにその姿は見えていない。はるかはみちるの中に指をぐっと擦り付けながら、尖った蕾を強く吸った。途端に、みちるががくがくと足を震わせる。
「あああぁっ! んっ……、はぁ……」
高い嬌声、強い硬直と共にみちるの腰が上がり、余韻に浸りながらゆっくりと降りてきた。息を荒らげ、シーツにしがみつき、目をぎゅっと瞑っている。連動するように、みちるの中に入ったままの指もひくひくと動く内壁に締められていて、はるかはしばらくその余韻に浸っていた。
涙の落ちた頬に手を添えると、みちるは瞑っていた目を開けた。まだ熱に浮かされたようにとろんと潤むみちるの目は、今度ははるかを快楽の海に溺れさせようと誘っているように見える。はるかははっとしてみちるから身を離し、彼女の足元側に座り込んだ。
「はるか?」
先ほどまでの荒ぶりは一体なんだったのだろうかと思うほどに、はるかは急に動きを止めた。じっと俯いている。
暗がりだがはるかが何を見ているのか、みちるにもよく分かった。はるかによって生まれたままの姿にされたみちるとは対照的に、はるかはまだ衣服を身につけたままだった。ショートパンツの布地の一部が不自然に張っている。その下はきっと、はるかのものが熱く勃ち上がっているのだろう。
みちるはそっと起き上がり、そこに向けて手を伸ばした。はるかは思わず、座り込んだまま後ずさりする。
「みちる、だめだ」
みちるは躊躇わず、はるかのものに触れた。思った以上に硬く大きなそれに内心驚いたが、先ほど抱かれながら何度か身体に触れていたこともあり、抵抗感はなかった。摩るように手を動かす。はるかは軽い呻き声を漏らした。
「これ以上はもう……」
「はるか」
みちるは手を添えたまま言った。
「大丈夫。あなたは何も変わっていない」
「何言ってるんだよ」
こんなに変わったじゃないか。はるかは愕然としていた。身体の外面的変化はもちろんのことだが、今日の自分はどう考えてもおかしい。みちるを傷つけかねないほど、我を忘れて強く彼女を抱いた。みちるが自らの腕の中で溺れよがる姿に、いつもより、とてつもなく興奮した。
「あなたは変わってないわ。だっていつもみたいに私のこと、愛してくれたじゃない」
みちるは自分の胸元に手を当てた。そこには数え切れないほど散らされた赤い印。いつも以上に強く残された証に、はるかはいたたまれない気持ちになる。
愛した証だと言えば聞こえはいい。
愛することと傷つけることは紙一重だ。
みちるを欲望のままに、自分の思うままに抱いたこと。それを愛したと言えるだろうか。
「だって私は嬉しかったから」
蒼く光る瞳が、細くなった。柔らかな微笑みが暗闇にぽっと浮かぶ。はるかの下腹部に添えられた手が、撫で摩るように動いた。その下ではるかのものは、ひくひくと反応するように動く。
潤んだ瞳に見つめられ、はるかは射抜かれたように目が離せなくなった。吸い寄せられるようにもう一度みちるに身体を寄せると、今度はみちるから唇を合わせる。するするとはるかの腰に手が回され、ショートパンツに指がかかる。はるかは躊躇いながらもみちるに従い、軽く腰を浮かせた。ショートパンツ、それから下着が、順に下ろされた。硬く勃ち上がったはるかのものが露わになる。みちるは初めて見るそれに内心驚かずにはいられなかったが、平静を装ったまま手のひらで優しく撫でたあと、先端に優しくキスをした。
「はるか、きれいよ」
「みちる、そんなところ……」
はるかがみちるの行動に驚き制止しようとしたが、みちるはそれを遮り、はるかを思い切り抱き寄せた。
「きて……はるか」
みちるは耳許でそう囁くと、はるかを導くように自らの腰を浮かせた。はるかはそこにそっと自分をあてがう。十分に潤っているとは言え、指とは比べ物にならない太さだ。躊躇う気持ちの大きさも相まって、先ほどまでのような我を失うような荒さはなかった。
先端が泉に触れると、依然として溢れ出す蜜がはるかにまとわりつくのがわかった。それだけで頭がカッと熱くなる。みちるを再びゆっくりとベッドに横たえて、はるかはその先への侵入を試みた。
「…………っ、ん」
みちるが息を詰まらせた。はるかは慌ててその様子を窺ったが、どちらかと言えばそれは痛みよりも恍惚を含んだ表情だったため、はるかはさらに先に自らを押し進めた。
先ほど絶頂を迎えたばかりのみちるの中は、想像以上に熱くひくつきながらはるかを迎えた。迎えたまま離さないという意思さえ感じるほど、きゅうとはるかを締め付け、それだけで強い快感を感じる。指と舌でみちるを愉しませていたときも十分に快を感じ興奮したが、それ以上に直接的に感じる刺激に目眩がしそうなほどだった。
「んっ……はぁ」
「……っ、ふぅ」
最奥まで達した時、はるかもみちるも共に詰めていた息を漏らした。はるかはそこで暫し、みちるの温かさを感じる。みちるは目を細めてはるかに縋るよう腕を掴んだ。
「痛くない?」
「ん……だいじょう、ぶ」
「少し動くよ」
はるかはゆっくりと腰を動かし始めた。みちるの中のものが前後に出入りするのがわかる。
この身体でみちると行為に及ぶのは当然初めてのはず……だったのだが、思いのほかスムーズに動き始めることができた。もちろんそれは、元の身体で何度も交わった経験があるからこそなのだが。
みちるの中は狭く熱かった。それでも溢れ続ける蜜のおかげで、少し動くとはるかをすんなりと受け入れ始めるのがわかった。手を伸ばして、先ほどまで散々花弁を散らしてきた胸の膨らみの上の蕾を摘む。みちるの中が少し緩んだ。その隙に、動きを少し早める。
「ふぅ、ああっ、はぁ、るか……あん」
みちるははるかを求め、名を呼んだ。はるかはそれに応えるように身体を密着させ、腰を打ち付ける。再び寝室に粘度のある水音が響いた。限りなく淫靡で、昂る音。みちるの額にかかる髪をそっと撫であげ、はるかは口付けを落とした。みちるも夢中でそれに返した。もう彼女もはるかから受ける刺激を、ただ享受することしかできなかった。知らず知らずのうちに腰を踊らせ、はるかを受け止めようと動いていた。
初めこそみちるの身体に気遣い、あまり奥に強く打ち付けないよう浅い動きを繰り返したのだが、何度か試行錯誤するうちに、ある程度奥に強く入った時にみちるが高く鳴くのがわかるようになってきた。
「あっ、ああっ! ……あんっ、そこ、なんか…………」
「気持ちいい?」
「わかっ、らない……けどっ……いつもより……ああっ」
みちるの腰が震える。中がひくひくと蠢き、二度目の限界が近いことをはるかは感じ取った。慣れない刺激に、はるかも頭がぼうっとして、何も考えられなくなっていた。ただみちるが、いつも指で刺激するのとは違う場所に何かを感じたのを嬉しく思って、はるかはそこに向けて一心に腰を動かし続けた。
「あっ、ああっ、はるか、やっ、ああああぁっ、だめっ」
急速に早まった動きに、みちるは高い声をあげた。快感の波が急に高くなり、溺れるような感覚を抱いていた。荒波に飲まれながら、みちるははるかにしがみつく。
みちるの中は、はるかを掴み、搾り取ろうとするかのように締まり始めていた。意識が霞み、飛んでしまいそうなほど強い快楽に身を任せようとした、その時。
目の前のみちるが、急に別人に見えた。
別人だが、正確に言えば彼女によく似ていて、はるかもよく知る人――そうネプチューン。
はるかの脳裏に、急速に意識が流れ込んできた。眼下に組み敷かれたネプチューン。恍惚した表情で喘ぐ彼女。夢中になって打ち付ける自らの腰。身体の奥から揺るがされるような絶頂感。
ハッとして目を見開いた瞬間、その光景は目の前のみちると重なる。そして。
「くっ……あっ……みちる」
「はるかっ……ああっ!」
みちるがはるかを強く締め付けるのと同時に、はるかも自らが達したことを感じ、みちるの中で果てた。