ルナとウラヌスの記憶がはるかとみちるの脳内に流れ込み、そして消えた。目を閉じてその記憶を受け入れていた二人は、記憶の再生が終わると共に再び目を開ける。
「僕たちが天王星と海王星の守護の任務を与えられたのは、そういう理由だったのか」
昨夜蘇った前世のウラヌスの記憶、そして先ほどルナを通じて知った天王星での任務が与えられた経緯、それらが全てはるかの中で繋がった。
朧気な記憶の中でウラヌスは、本来の任務ではなくネプチューンに対して行為を行うことに躊躇っていた。結果、行為を強行し二人は追放されることになったわけだから、あの時ウラヌスが自制できていればこのようなことにならなかったはずだ。自分の人格とは違う人物の過去の話とは言え、はるかは多少の責任を感じる。しかし一方で、自制ができない感覚は昨夜自分自身も経験したから、ウラヌスの気持ちも理解できなくはない。
ただ、クイーンの決断には疑問も残った。体内に宿命の力が残るネプチューンはともかく、なぜウラヌスまでもが元々の任務から外され、追放となったのか。本来結ばれるべき相手以外との交渉を行ったウラヌスに対しての罰とも考えられるが、はるかはなんとなくそうではない気がしていた。クイーンがルナとアルテミスの前では「追放」という言葉を使っておきながら、ウラヌス本人に対しては宿命の力を誤用したことについて咎めず、新たな任務を与えることしかしなかったからだ。また、目的外に力を使ってしまったことにより本来の任務になんらかの影響を及ぼすことを懸念した可能性も考えられたが、先ほどのルナの記憶によると、クイーンはウラヌスの処遇についてはギリギリまで迷っていたようにも見受けられた。なにか任務に影響するような事由があれば迷うことなく追放されていただろうから、これも理由としては当てはまらないような気がする。
浮かない表情になったはるかにルナが声を掛けた。
「はるかさん、確かに結果として二人は新たな任務を与えられて追放される形にはなったし、本来の任務は遂行されなかった。だけど、ウラヌスの行動に責任があったとは言えないの。過去の話だし、あなたが気にすることではないわ」
「どういうことだ?」
ルナの言葉に、はるかは顔を上げた。それに対し、ルナははるかではなく全く違う方向に視線を向ける。そこにいるのは、衛だ。
「その前に、かつての月の王国と地球国の関係を話させてもらおうか」
ずっと黙って話を聞いていた衛が突然口を開いたため、はるかとみちるは驚いた。衛は二人の前まで歩いてきて、ルナに目配せする。
「かつて月の王国は、地球国と正式に同盟を結び、敵であるクイン・メタリアに対抗しようと試みていた。つまり――――それが成功し、月のプリンセスと地球の王子が結ばれれば、王家は伝統的な方法で世継ぎを迎える必要がなくなるはずだったんだ」
衛が話した内容はこうだった。
かつて月の人間と地球の人間が結ばれることは禁じられており、クイーンはプリンセスが地球国の王子であるエンディミオンと結ばれることも当然許さなかった。
しかし一方で、プリンセスが本来の想い人と結ばれることができない運命にあることや、宿命に関する「欠陥」を鑑みて、これまでの方法で月の王国の命を繋ぎ続けることに限界も感じていた。
「欠陥?」
衛の言葉に、はるかもみちるも眉を顰めた。
「宿命の力では女性しか生まれないこと。王家と戦士の血筋でしか世継ぎを迎えられないこと。そして、宿命が果たされ子が生まれると宿命の戦士は一切の力を失うこと。この三つよ」
横からルナが説明する。
パワーが強く高い戦闘力を持つ宿命の戦士が力を失うことは、王国にとって毎世代痛手となった。平和な時代であればさておき、特にクイン・メタリアによる圧力が強まっていた中でウラヌスの力を失うことは、相当なダメージになるだろうとクイーンは思っていた。
「月と地球が正式に手を組めば、クイン・メタリアに対抗することもできる上にプリンセスと王子の交際も正式に許可することができる。そして、懸念点の多い『宿命』という方法で世継ぎを迎える必要もなくなる。クイーンはそう考えていたようだ」
「けど、クイーンは結局ウラヌスに宿命の任務を与えたわよね」
みちるの疑問に、衛は俯いた。
「クイーンは秘密裏に地球国と同盟締結を進めていたが、クイン・メタリアの圧力が強く、思ったように進まなかった。地球国との同盟関係を示すことで、クイン・メタリアの侵略を諦めさせようとしたが、むしろプリンセスと王子の恋仲が深まっていく可能性を察知し、その嫉妬心から攻撃の手を強めてきたんだ。だからクイーンは一度同盟関係を諦め、プリンセスに王子との恋仲を解消させ世継ぎを作ること、そして月の王国が地球国と縁を切ることをクイン・メタリアに示そうとした。
…………俺たちは結局、引き離されることになったんだ」
衛の沈んだ声で、一同の間にやや暗い空気が流れた。月の王国滅亡までの話ははるかやみちるも大まかには聞いており、エンディミオン王子とプリンセスの恋が成就しなかった悲しい過去についても知っていた。それを、王子の生まれ変わりである本人から聞くのは、なんとも言えない気持ちになる。
ウラヌスが任務を与えられるまでの経緯はここまでで明らかになった。しかし、その後の追放に関する疑問と、ルナが「ウラヌスの行動に責任があったとは言えない」と言った意味には繋がらない。
はるかがルナをちらりと見ると、ルナはまるで話すタイミングを伺っていたと言わんばかりに、衛の話を引き継いで話し始めた。
「宿命の任務は、本来もっと時間をかけて準備されるべきものだったの。だけど、急な方針転換でそれができなかった。クイーンはそのことをとても後悔していたわ」