前日のドライブでは、外周路を一周するだけで終わってしまったけれど、今日も同じでは芸がないと、はるかは途中途中で車を停めて景色を眺めたり、進路を変えて気になる店に寄ったりした。海に囲まれた島だからどこで車を停めても周りに見える景色は海なのだけれど、方角によっては周辺の島の見え方が変わったり崖や海岸の有無が変わったりと、いろんな表情を楽しむことができる。
「ねえ、はるか」
海に向かって先に立って歩いていたみちるが、はるかの方を振り返ることなく呟いた。
「なに?」
海に突き出る形の岬の灯台の傍。おしゃれな煉瓦造りのためか、この島の観光スポットの一部になっている。みちるはその灯台を見上げた。ちょうど階上の展望台から降りてきたと思われるカップルが、仲睦まじい様子で寄り添って出てくる。みちるは自然とそのカップルを見てから、はるかの方に振り向いた。
「私たちって本当に、ただのお友達だった?」
「……え?」
はるかは思わず立ち止まり、みちるをまじまじと眺めた。昨日は時折不安そうな表情を見せていた彼女だが、今日は随分と明るい表情が増えたように感じていた。今は、どうだろうか。感情が読み取れない。ただ、どこか覚悟を秘めているように見える。
「その…………あなたと一緒にいると、とてもそれだけとは思えなくて」
みちるは言葉に迷いながら、しかしいま自分が感じた表現として適切であろう言葉を探して、はるかに尋ねた。
「僕たちは」
みちる以上に言葉に迷いながら、はるかは呟いた。なんと説明するべきか、頭の中で考えを巡らせる。
戦士としてパートナーであることも、恋愛関係を持っていたことも、いずれも間違いではないし正解と言えるだろう。
しかし、二人が端的な言葉で表現できるような関係であるかと問われると、そうではなかったと思う。
「友達以上の関係、だった」
「相棒」だとか「恋人」だとか、正しいと思われる言葉で表現してしまうのは簡単なことだ。ただ、それで二人の関係を全て説明し、みちるが納得できるような答えに行き着くとは、はるかには到底思えなかった。
「そう……」
みちるははるかの言葉に、それだけ返して俯いた。納得をしているともしていないとも受け取れる、曖昧な表情で。みちるなりに自分が感じた疑問とはるかの答えを結びつけ、考えているのだろうと、はるかは思った。
灯台からコンドミニアムまでの帰り道、みちるは静かに助手席に座り、海を眺めていた。はるかも何も言わず、淡々と運転し続けた。
互いに秘めた思いを心の中に抱えながら。
夕食は、昼間に立ち寄ったレストランで野菜や肉を手に入れることができたので、二人で調理することにした。調理から食事の時間までは終始和やかな雰囲気で、はるかはみちると初めてキッチンに立った日のことを思い出した。無限学園への潜入調査の折、二人とも学園にほど近いタワーマンションの一室を借りて暮らしていたのだが、その際互いの家を行き来して料理をした事があったのだ。みちるはお嬢様と言われていたから、傍目には包丁もまともに握った経験がないように映っていたけれど、さすが海王家の娘として教育を受けているだけあり、料理の腕も申し分なかった。はるかも、凝った料理を進んで作るほどの腕前はないし、天王家での教育は渋々受けていた記憶しかなかったが、最低限の教育は受けていて良かったと、 その時実感したものだ。
ランチでこだわりの料理を堪能したから、ディナーはシンプルに、素材の味を活かしたグリルを。さらには、いつの間にかみちるがはるかの好物のサラダまで作っていたからはるかは驚いた。
「みちる、これ」
「そう、あのお店でいただいたラディッシュがとても美味しそうで。ついサラダも作りたくなっちゃったの」
みちるはなんでもないような様子で微笑んだ。ああ、確かにそうだと、はるかは頷く。内心ではみちるに対し、自分の好物を思い出したのではという期待感を抱いてしまったことにも気づいたが、そうでなくとも良い。嬉々とサラダをテーブルに運ぶみちるの姿に、はるかも自然と笑みが溢れた。