ドレスから露わになったみちるの肌は、内側から光を放っているのではないかと思うほど、艶やかに輝いていた。はるかは露骨に目が離せなくなり、みちるは気まずそうに胸の前を手で覆った。
「もう少し暗くしてくださる?」
みちるの四肢を鮮明に見ていたかったはるかは気乗りしなかったが、みちるに気分を損なわれては困ると、素直に照明を落とす。広い部屋の、ベッドから離れた壁際の照明だけが残された。横たわるみちるに一方向から光があたり、胸部の膨らみが深い陰影を描く。
ドレスは腰部分まで下ろされ、みちるは上半身にスリップとブラジャーのみを身につけていた。中途半端に残されたドレスも、はるかが「皺になるから」と言ったため、みちるは渋々脱ぐことを許した。
はるかの指は、鎖骨から腕にかけてをゆるゆるとなぞり、再びみちるの右手に絡んだ。右手はスリップの肩紐にかけられ、するりと肩を滑り降りてゆく。細かなレースが施されたブラジャーの上から、みちるの豊かな胸を恭しく包んだ。はるかの長い指をもってしてもあまり溢れるみちるの膨らみに、はるかは素直に驚きを隠せなかった。フロントのホックに指をかけながらみちるの表情を窺うと、明らかに緊張した様子ながら、その先の行為を止める素振りは見せなかった。はるかはプチンと音を立てて真ん中のホックを外し、みちるの胸元を解放した。締めつけを逃れたふたつの膨らみは、ふるんと揺れながらはるかの目の前に現れる。みちるは頬を染めながら腕でそれを覆った。
はるかはやんわりとその腕をどかしながら、みちるに顔を寄せて囁く。
「みちる、すごく綺麗だ……もっと良く見せて」
みちるは恥ずかしがってはいたが、強く抵抗することはなく、大人しくはるかに従って腕をどけた。はるかは両の手でそれぞれの乳房を包み込む。それは弾力があり温かく、これまで触れてきた他のどんなものとも形容し難い触り心地だった。はるかがくるくると捏ねるように撫でると、みちるは軽く息を詰めてそれを受け入れる。
「ん…………んっ……」
乳房が揺れてはるかの手のひらで転がされるたび先端も絶妙な加減で擦られ、擽ったいような心地良いような不思議な感覚がして、みちるは思わず目を瞑った。初めのうちはそれが良いものなのかよくわからなかった。やがてはるかが緩急をつけて乳房を揺さぶるようになり、不規則に訪れる刺激で、みちるは思わず声を漏らす。
「あっ……ああ……んっ……はるか……」
「みちる……可愛いよ」
目の前のみちるが愛おしく思えて、はるかは思わずそう呟いていた。みちるが自分の手によって乱れているのがまだ信じられなかった。はるかは乳房を揉みながら、先端の蕾を軽く指で摘んだり弾いたりした。みちるが軽く顔を歪め、浅く息をつく。
「んっ、ああっ……はぁ、んっ」
鼻にかかった遠慮がちな声がみちるから漏れる。恥ずかしさもあったが、それ以上にまだみちる自身が迫り来る刺激や快感をどう扱って良いかわかりかねてもいて、みちるは思うように声を上げられずにいた。
「大丈夫……もっと聞かせて」
はるかは熱に浮かされたようにうっとりと甘い声でみちるに囁いた。乳房への愛撫を続けながら口付けをする。みちるは堪らずはるかの背に腕を回し、ぎゅっと掴んだ。
「んっ……んんっ……」
はるかに口を塞がれ、くぐもった声が漏れる。ほんの少し前までは、どれほどはるかに愛撫されようとも自分を保っていようと思っていたのに、その決意はあっさりと打ち砕かれた。みちるはいますでに、はるかにしがみつき、されるがままに刺激され、身を捩りながら声を上げるほかなくなっていた。
はるかは器用に指先での愛撫を続けながらみちるに口付けをし、離れると今度は胸の先端の蕾を自らの口に含んだ。はるかによって昂められたそれは、みちるに新たな刺激を与えるのに十分すぎるほど固く立ち上がっており、みちるは思わず喉を反らせ声を漏らした。
「はぁっ…………!」
みちるの反応は、はるかが期待した以上だった。気をよくして、はるかは舌を使ってみちるの胸に愛撫を続ける。片手はもう一方の胸の先端を捏ね、空いた手はみちるの手に絡める。上半身から下半身までをぴたりと寄せてベッドに押さえつけると、みちるから発せられる熱が直に伝わってきた。熱とともに色香も立ち上ってくるようで、はるかは視覚からも嗅覚からもみちるに酔いしれていた。
こんなにみちるの身体に夢中になるとは、はるかは到底思っていなかった。みちるの身体に触れ、愛でる行為は、どこか麻薬のような中毒性があった。
そもそもはるかはこれまで、女性の身体を好んで抱きたいと思ったことがあるわけではなかった。多くの女性に軟派な態度を取ってきたことは事実だし、その都度口にしていた「可愛い」などという褒め言葉も本音だった。しかし、恋愛対象や性行為の対象を明確に女性であると認識していたわけではなかったし、本気で深い関係を持ちたいと思った相手もいなかった。かと言って、男性が対象になるわけでもなかった。自らが女性である以上、男性から“そういった目線”で見られることも少なからずあったが、相手が誰であっても心が動くどころか不快極まりなく――そのような疚しい態度や視線を露わにしてくる時点で紳士的なはずはないから当たり前のことではあるのだが――むしろ自身が男性的な態度を取ることで、余計な関わりを遮断していた向きもあった。
だから、みちるに対して好きだという気持ちを自覚した時に、まず新鮮な驚きがあった。そして、キスをしたい、身体に触れたいという欲求の昂まりは、はるかに革命的な変化をもたらした。実際にみちるの身体に触れ、露わにした際には、全身が強く彼女を求めていることを感じ、心の奥底から雷に打たれたような衝撃を感じた。
世間一般の同年代よりも、はるかはあらゆる分野において多くの経験をし、交友関係も広かった。大人びた立ち居振る舞いもできていた。だが、〝本気の恋愛〟に関してだけは全くの未経験だったと言えよう。
はるかはいま、本人も気付かぬうちに、生まれて初めての恋愛に足を踏み入れていたのだった。