ベッドの端に腰掛けるみちるを、はるかはふわふわとした気持ちで眺めていた。以前からとっくに気づいていたことではあるけれど、みちるはそんじょそこらの同年代の女性よりも遥かに容姿端麗で、才能や家柄にも恵まれている。それでいて、まったくそれを鼻にかけることもなければ卑下することもなく、他人からの目線を常に意識し、自尊心を適切にコントロールできる女性だった。生まれてこのかた、はるかはこんな人間に出会ったことがなかった。
ただ、おそらくそれだけであれば、深い関係になろうなどとは思わなかっただろう。言うまでもなく、セーラー戦士として過ごす時間を経て、はるかはみちるに惹かれた。
その見た目の美しさや類稀なる才能の奥に、人知れず積み上げてきた泥臭い努力や苦労があること。自分の夢を絶ってまで使命と向き合い、果たそうとしたこと。それでいて、心の奥底にははるかに対する真っ直ぐな深い思いを持ち続けていたこと。
みちるが完璧だから惹かれたのではなかった。むしろ彼女が決して表に出すことのない人間臭さや感受性の豊かさ、情の深さを知ってしまったからこそ、底知れぬ彼女の魅力から抜け出せなくなったと言ってもいいかもしれない。そしてそんな彼女の素の顔を知っているのは自分だけだろうという事実は、はるかに軽い優越感を持たせていた。
その彼女がいま隣に座っていて、戸惑ったような表情で自分を見上げているのが、はるかにとってはどこか夢のようだったし、現実味がなかった。みちるについては他の誰よりも自分が一番良く知っていると思っていたのに、いま目の前にいるみちるは、はるかにとって初めて見る表情をしていた。
さらにみちるは、自分にすべてを捧げるとまで言ったのだ。内心では全身の血液が逆流し沸き立ってしまうのではないかと思うほどに驚いたし、これから始まる時間への期待感と興奮を感じずにはいられなかった。
同じようにベッドに腰掛け、距離を詰め、手を重ねた。潤んだ瞳で見つめるみちるに顔を近づけると、悟ったように長いまつ毛がふわりと降りる。柔らかで程よい厚みのある唇に、自分のものを重ねる。湿った温かい感触は、普段人に明かすことのない秘められた場所を思わせ、率直に性的な興奮を覚えた。
重ねていない方の手でみちるの頬に触れると、滑らかで弾力のある感触が指先に伝わってきた。そこから指を滑らせ、ウェーブがかった髪を梳き、みちるの頭部を支えるよう包み込む。同時に、はるかの舌先はみちるの中への侵入を試みていた。
最初に軽く撫ぜるように唇をつつくと、みちるはおずおずと隙間を開け、自らも舌先を覗かせながらはるかを迎え入れる。最初は軽く触れ合う繋がりを数回。それから少し角度を変え、はるかの舌は一気にみちるの中に入り込んだ。
重ねられたみちるの手が、きゅ、と軽く結ばれるのをはるかは感じた。急なことに驚いているようでもあるし、これから先に行われることへの緊張でもあるようだった。はるかは重ねた手を握りながら、なるべく優しくみちるを扱うよう注意を払った。
はるかは丁寧にみちるの口内を愛撫した。戸惑う様子でいたみちるも、次第にそれを受け入れ、やがてはるかに応えるよう自らも舌を動かし始める。ふたりの舌は互いの口内を行ったり来たりしながら、撫で擦り合い、ついたり離れたりを繰り返した。やがてどちらのものともわからない混ざりあった唾液が口の端を伝い溢れ出したが、それでもふたりは離れようとしなかった。
その行為そのものも、伝わってくる感触も、言葉にし難い快感があった。はるかもみちるも、すっかりキスに溺れ、互いに夢中になっていた。それでいて、みちるが自分を受け入れ舌を絡めて愛撫し合っているのは、はるかにとってどこか信じ難いものだと思う気持ちもあった。自分以外には決して明かすことのない、柔らかく閉じられた場所を自分にさらけ出しているというのは、何かとても大きな意味を持つように思えたのだ。
みちるにとってもそれは同様だった。みちるにとってのはるかは、これまでも、これからもずっと、“憧れの”天王はるかだった。戦士として横に並ぶようになってもそれは変わらなかった。みちるにとってはるかは、使命という闇を切り裂き希望を与えた存在でもあり、命に替えても護り抜きたい存在でもあった。例え戦士として助け合う間柄となろうとも、そしてこれからは恋人として対等な関係になろうとも、彼女に対する憧れの気持ちは永遠に変わらないだろうとみちるは思っていた。
その天王はるかが、いま、自分にキスをしている。それはみちるにとって強い衝撃を与えた。さらに、その行為はみちるの知るどんな行動より、幸せで満ち足りた感情を与えるものだった。好きな人と繋がっている事実がそうさせているのか、あるいははるかのテクニックのおかげなのかはわからなかったが、端的に言ってとても気持ちよかった。みちるは自分がずるずると沼に引き込まれていくのを感じた。戻れない世界へ踏み出したことを悟った。それはどこか怖くもあり、しかしはるかに誘われるのであれば、その身を委ねてどこまでも堕ちてゆけるだろうとも思った。