「こんなに小さい時計でいろいろ測れるのね」
みちるは僕がつけた時計を覗き込んだ。細長いネイビーのバンドには、小さい文字盤。デジタルの時計が備えられ、一秒一秒数字がカウントされていくのが見える。手首に接している面からは僅かに緑の光線が出ている。
「二十四時間身につけてなきゃいけないんだけどね」
小さいながらに枷の如く感じるその時計を振って、僕はため息をついた。
僕はセーラー戦士としての戦いが終わってからモータースポーツに復帰したのだが、最近ではスポンサー企業がついてくれるようになった。その中の企業のひとつが、体重計などの健康器具を開発しているメーカーだった。
今回その企業から、身体の生活リズムを分析して効果的なトレーニングメニューを考えたり、普段の食事メニューから栄養バランスを分析してアドバイスを受けられるメニューを提供してもらえることになった。
「まずはこの時計を二十四時間身につけてくださいね。心拍や運動量、睡眠リズムなどを測ります。
あとは食事。何を食べたかこちらに記録してください」
企業の担当者から渡されたのは、腕時計型の時計と食事を記録するためのノート。まずは一週間、時計を身につけて生活し、食事の内容をノートに書き込まなければならない。
基本的に僕は時計を身につけているだけだし、食事については一緒に暮らしているみちるが気を遣ってくれているから、あまり苦労はしなさそうだ。
……と、当初はそう思っていた。
だけどこの生活を始めてみると、時計の存在が意外と鬱陶しくなってくる。二十四時間常に見張られているような、監視されているような、そんな不快な気分になるのだ。おまけに、つけるのを忘れてしばらく時間が経つと、お知らせのアラームまで鳴るらしい。
積極的に生活を改善していくつもりがあり、自主的に身につけ始めた物であればまだ良かったのだろう。しかしそうではないため、僕は余計に鬱陶しさを感じてしまった。
「……僕は縛られるのは嫌いだな」
時計のついた左腕を掲げ、呟く。
「あら。縛るほうがお好き?」
みちるがふふっ、と笑い、冗談めかして聞く。僕は思わず苦笑いした。
「何言ってるんだよ、みちる」
「冗談よ。たった一週間でしょう。いろいろ分析してもらえば、今後の練習に役立つかもしれないわよ。私の食事の準備にも、ね」
みちるは時計をつついて、キッチンに向かった。
彼女は僕が復帰してから、積極的にアスリート向けの食事メニューの勉強をして、日々の献立に活かしてくれている。今回の申し出を聞いたときも、「恥ずかしくないメニューにしないと」と真剣に考えていたくらいだ。時計を身に付けるだけの僕より余程大変だろう。それを考えたら、文句は言っていられない……か。