制服姿を鏡に写しながら、はるかとみちるは唇を重ねていた。
先程みちるに言われた言葉が、はるかの頭の中で響き続けている。
「はるかと、離れたくないの」
――僕は……いつもみちるの隣にいるのに、みちるに手を伸ばすと、するりと抜けてしまう。いつもそんな感覚を持っていた。
芯が通ってしっかりしているのに、自分の本当の気持ちはどこかに隠しているようで。言いたいことを僕に伝えてくれないまま、手を離したらどこかに行ってしまいそうで。
みちるが一人で泳いでいる時やヴァイオリンを弾いている時、いつもみちるが一人で自分だけの世界へ行ってしまい、はるかは一人置いていかれたような気がしていた。
あの日も、そうだ。二人がタリスマンを抜かれた日。あの日もみちるは朝から自分だけの世界に潜ってしまっていた。
「自分だけの世界に行くなんて」
「僕を置いていくなよ」
軽い口調で、言った。こんなことを本気で言ったら重くなりそうだから、はるかは努めて明るく伝えたつもりだった。
でもみちるはその言葉には応えなかった。何か言いたげな表情をしていたのに、伝えてはくれなかった。
タリスマンの出現を予知していた日だったから言えなかったのかもしれない。そうであれば、使命が終わった今、みちるの本音を聞いてみたい。はるかはそう思っていた。……が、そのきっかけが掴めないでいた。そのうちに、まずはこの地を離れるということだけが決まった。みちるの本当の気持ちを聞けないまま……。
「みちる……」
唇が離れて、はるかはその名を呼ぶ。ずっと掴めなかったみちるの本心。今ようやくそれを聞くことができた。
みちるは潤んだ瞳ではるかを見つめている。深い碧色に、はるか自身を写しているのが見えた。
改めて鏡に写った自分たちに視線を戻す。臙脂色の無限学園の制服を身につけている二人は、共に何かを噛み締めるような切ない表情をしていた。二人の戦いの日々を象徴する制服。その一方で、共に過ごした日々を思い起こさせる思い出の制服。
この制服を着ていると、それらの苦みと甘みが胸に広がる。
……もう、着納めか。
そう思ったら急に、名残惜しくなる。
はるかは鏡を向いたままのみちるの左側の髪を掻き、首を晒した。制服の襟から覗く白い首に、噛み付くようなキスをする。
「……あ」
突然の行為に、みちるは驚いたように声を上げた。はるかの片腕にかけられた手がぎゅ、と掴まれる。
わざと、ちゅっ、と音を立てて唇を話すと、みちるは真っ赤な顔ではるかを見上げた。
「はるか……」
「そんな顔されたら……我慢できない」
そう呟いたのがみちるに届くのを待つや否や、もう一度、唇に。今度は先程までのキスよりも強く。
少し空いた口から舌を入れ、口内でみちるの舌と絡め合う。舌先を触れ合わせ、なぞるように絡めて。
「……んっ」
隙間からみちるの息が漏れた。息を継ぐたびにくちゃっ、と舌の絡む音が響き、はるかの気持ちを煽る。
はるかは右手をみちるの胸元に滑り込ませた。丁度先程、はるかが結んだリボンの真下。高校生にしては大きなその膨らみに直接手を触れる。
みちるの身体がぴくりと震えた。はるかの腕を掴む手が何かを訴えるように動くが、それを無視してみちるの右胸の外郭をすっと撫でた。
「んっ……はっ……」
みちるが身体を震わせ、声を漏らす。長い口付けを終えて唇を離すと、混ざりあった唾液がみちるの口端に光っていた。
「ちょっと、はるかっ……!」
驚きと恥じらい、そして若干の抗議の表情を浮かべた瞳がはるかに向けられた。でもそこに強い拒否は見られなかったから、はるかは右手をそのままみちるの制服の下に残しておく。
「ずっと前から、みちるとこうしたかった」
みちるの額にコツっ、と自分の額を当てて、はるかが呟く。目の前でみちるの潤んだ瞳が動く様子が見えた。
「この制服姿のみちるが、好きだったよ」
みちるを抱いていた左手で、はるかは胸元についた無限学園のマークである星印をなぞった。
「はるか……」
焦点が合わないほど近い位置にあるはるかの瞳を見つめる。蒼碧の瞳がみちるのことを見つめ返している。みちるが左手をはるかの頭の方に伸ばして、すっ、と愛おしげに耳元を撫でた。
「私も、はるかがこの制服を着ているのが好きだったわ……」