高いマンションの大きな窓から、無限学園跡地の痛々しい戦いの痕跡が見える。日差しに照らされて、大きなくぼみに溜まった水がキラキラと光っていた。カーテンが取り外され、荷物がほとんどなくなった部屋にも、柔らかな日差しが差し込む。
デス・バスターズとの戦いが終わり、はるかとみちるはこの地を去ることにした。慌てて出ていく必要は全くなかったが、無限学園の跡地が見えるこの場所に長く留まる気にもなれず、どちらからともなくこの地を離れようという決断に至ったのだ。今日は朝から荷造りをしていた。
とは言っても、元々学園を調査するためだけに引っ越してきた部屋だ。片付けるほど多くの荷物は持っていない。いくつかのダンボールに荷物を詰め、あっという間に荷造りは終わってしまった。
「これ……」
ほとんどの荷物が片付けられ、がらんとした部屋に残されたラック。みちるはそこにかけられたはるかの制服を手に取る。まだそれほど長く着ていないせいか、比較的綺麗な状態だった。もう二度と、その制服を着て登校することはない。
張りのある上質な素材の制服に触れ、みちるは無限学園での日々を思い出した。
使命のため、調査のため、そう言い聞かせて登校し続けた日々。いつも気を張り詰めていたし、敵との戦いも数多くあった。決して高校生らしい生活ではなかった。
――でも……楽しかった、な。
どうしてそう思うのか、自分の気持ちにはもうとっくに気づいている。
――はるか。
はるかが一緒にいてくれたから。同じ学校に入ろうと言ってくれたから。そして、共に戦ってくれたから……。だから無限学園での生活は、みちるにとってとても大事な思い出になった。
敵との戦いばかりの日々を「大事な思い出」というには、あまりに重い生活だった。でも、今そう言えるほど、はるかの存在はみちるの心を支え、守ってきたのだ。はるかがいなければとうに使命を諦め、投げ出していただろう。
この制服を着たはるかと並んで歩く時、みちるの心はいつも弾んでいた。無限学園のどの男子生徒より、はるかが一番制服を着こなしていた。高身長で足の長いはるかは、廊下を歩くと女子生徒の視線を集めていたし、その隣を歩くみちるも背筋が伸びた。
もちろん、心の底ではいつも使命のことを考えていて、浮かれてはいられないことはみちる自身がよくわかっていた。だからそんな感情は表に出さなかったけれど……。
みちるははるかの制服をぎゅっと握りしめ、胸に抱く。はるかの匂い、そしてほんのりとウールの匂い。
「はるか……」
思わず口に出して呟く。
まだ、はるかとみちるはこの地を離れてどうするのかを決めていない。とにかく早く離れようという意見は一致したが、その先どこへ行くのか、そもそもこれからも一緒に暮らすのか、そういった具体的な話は一切していなかったのだ。
お互いに帰れる家もある。新たな家も、望めばすぐに手に入るだろう。海王家も天王家も、そのような融通はすぐに効かせてくれるはずだ。
だからこそ、みちるは言い出すことができずにいた。言い出したら、またはるかのことを縛ってしまいそうで。この関係が崩れてしまいそうで。
……そうなってしまうくらいなら、いっそこのままでいい。
だからみちるは、無限学園での思い出を胸に海王家に戻ろう。そう思っていた。