テーブルに置かれたままのケーキに手を付けられたころには、22時近くになっていた。
ご飯も食べずに甘いものなんて良くないわね、と思いながらも口を付ける。レモンの爽やかな香りが広がるそのケーキは、クリームが溶けかかっているにも関わらず絶品であった。
「せっかく買ってきたのに、ちょっと溶けちゃったかな。残念だ。」
「あら……これ、はるかが買ったの?」
みちるは驚いた。てっきりファンからの差し入れだと思っていたのに。
「ほら、ちょっと帰りが遅くなっちゃったからさ。みちるも食べたいって言ってただろ?」
閉店間近だったからすぐだと思ったけど、意外と並んだんだよな、と残念そうに呟くはるか。
「……ばかね。」
思わず先程と同じセリフを呟いてしまう。
「ケーキを買ってくるより、早く帰ってきてくれる方が嬉しくてよ?」
それでもはるかが自分を思ってしてくれた行動が嬉しくて、みちるの顔はほころんでいた。その顔を見て、はるかはまたみちるにキスをする。
もう香水の香りはどこかに消え、レモンの香りだけが残っていた。