楽しかった一日が終わった。はるかとみちるは、リビングのソファにゆったりと座って過ごしていた。
今日は先程まで、うさぎ達を含めた大人数でせつなの誕生会とハロウィンパーティを行っていた。うさぎたちは随分前に帰り、ほたるとせつなもそれぞれ寝室に戻っている。はるかとみちるは、大体の片付けが終わったあとに残ったワインをゆっくり飲んでいた。あっという間に夜が更け、窓の外は月で明るく照らされている。照明を落として薄暗くしたリビングに、月明かりがうっすらと差し込む。
「それにしても、随分いろいろと用意したのね」
みちるがそばに置いてあった紙袋を示した。二つの大きな紙袋の中には、先程まで皆が着ていた仮装グッズが収められていた。いろんな仮装ができるよう、事前にはるか、みちる、せつなで選んだものと、うさぎたちが持ってきたものと、それぞれの仮装でいっぱいになっていた。
「ああ。楽しかったな」
はるかは中を覗く。そして上の方にあった黒いマントを引っ張り出した。パーティの間にせつなが羽織っていたものだ。
「これなんか、僕にも合いそうだよな」
そうつぶやいて羽織ってみせる。ちょうど着ていた白いシャツと黒いパンツによく合っている。手にしたワインが赤い血を想像させた。
「……吸血鬼?」
「正解」
マントを羽織っただけのシンプルな姿だが、はるかのもともとの華やかさとスタイルの良さが逆に際立ち、それだけで十分な存在感を放つ。
「じゃあ私はこれを」
みちるはもう一つの袋から、赤いベロアの上品なケープを取り出して羽織った。
「どうかしら」
「よく似合うよ」
はるかは少しいたずらっぽい顔になった。手を伸ばして、みちるの頬をなぞる。
「吸血鬼から逃げる姫君かな?」
「あら。赤ずきんのつもりだったのだけど」
リビングの端に置かれたスタンドライトのせいか、はるかの顔は逆光気味で暗い。みちるを見つめる顔は、確かに獲物を品定めしている吸血鬼のようにも見えた。
「なるほど。だったら狼男ってのも悪くないな。今日は満月だしね」
はるかはそう言ってワインを一口、口に含む。そしてそのままみちるの唇に合わせた。みちるの口内にほろ苦いワインの味が伝わってくる。
軽い口づけだと思っていたのに、お互いの口の中でワインが混ざり合うのを感じたら、止まらなかった。はるかは一度みちるの口内に舌を差し入れ、ぐるりとなぞる。まるでワインの味をもう一度味わうかの如く。
「……っん」
軽い息継ぎの間に、みちるの口の端から赤い液体がツ……とこぼれた。構いもせず、はるかはみちるの背中に手を回し、強く抱き寄せた。
「……ん、もう」
長いキスがやっと終わる。みちるの顔が、ワインのせいかキスのせいなのか、ほんのりと赤く染まっているのが見て取れる。
「……赤ずきんを食べるのは狼男ではないでしょう」
みちるがやっと口にした言葉がそれだったので、はるかは思わず笑ってしまった。
「そこかよ。まあいいや」
はるかはみちるの顔に口を寄せ、口端にこぼれたワインを舌ですくった。
「どっちにしても、食べることには変わりないしね」
そのままの勢いで、二人はソファに沈みこんだ。