暗闇で、みちるははっと目を開けた。はっはっ、と短く荒い呼吸を繰り返し、額に汗が滲んでいる。呼吸が落ち着くにつれ、じわじわと自分の状況を理解し始めた。
「はるか……」
キンモク星へ行き、はるかが倒れたこと。転生したはるかの身体には、はるかではなくウラヌスの魂が戻ったこと……その事実が一気に頭に流れ込んできて、心がぐっと重くなった。
しかしその直後、みちるは髪に柔らかい手の動きを感じた。後ろから優しく頭部を撫でていて、まるでなだめられているようだ。右を向いて横になっていたみちるの肩には、はるかの腕が回されていた。
目が覚める直前に感じた柔らかい温もりは、まぎれもなくはるかだったのだ。その事実が嬉しくて、思わずはるかを抱きしめ返したくなった。
しかしそこではたと気づく。その心は、自分が求める”はるか”ではない――そちらを振り返るべきかどうか迷い、みちるはじっとしていた。
みちるの呼吸が落ち着いてもなお、はるかはみちるのことを抱き、撫で続けていた。みちるはただ黙ってそれを受け入れていた。
ずいぶん長い時間そうしていて、やがてみちるが口を開いた。
「ごめんなさい」
小さく消え入りそうな声だった。わずかな布のこすれる音にすらかき消されてしまいそうなその声に、はるかはみちるを撫でる手を止めた。
「どうして、謝るの」
はるかも小さな声で囁くようにみちるに尋ねた。自然とはるかがみちるの耳許に寄る形になり、みちるは少しだけ胸を高鳴らせてしまう。しかし一方では、そうやって反応する自分が許せないという思いも心に湧き上がっていた。
「あなたは、はるかではないのに……」
短くそう呟いたみちるに、はるかは何も言わなかった。何も言わない代わりに、先ほどまで頭を撫でていた手が首の下を回ってみちるの前に回され、みちるは後ろから完全に抱きすくめられる形となった。
二人がより密着することになり、みちるの胸がさらにどきりと高鳴る。密かにそれを抑えようと、みちるは何もない暗闇の一点を見つめていた。
「そうかもしれないけど」
しばらくの静寂のあと、はるかは囁くような、まるで独り言のような口調で呟いた。
「君を見ていたら、僕はこうするしかなかった」
みちるははるかの言葉に、暗闇ではっとしたように目を見開き、息を呑んだ。
「ただ、それだけだ」
その一言に、みちるは自分の心がまた震え始めるのを感じていた。今日はあれほど心を揺さぶられる思いをたくさんしたと言うのに。まだ、終わりがないらしい――。
みちるはゆっくりと手を動かして、自分の肩に回された腕に添えた。それに呼応するように、またみちるを抱く力が強くなった。
「あなたははるかではないとわかっているのに」
みちるが声を震わせながら囁いた。はるかがみちるの首元に顔を埋めたのを感じて、みちるは堪えきれず、軽く首を振る。しかしはるかは構わず、より深くみちるの首に自らを埋めた。
目元が、それから身体が一気に熱くなるのを感じながら、みちるは続けた。
「あなたの中に、はるかを探してしまうの」
はるかの腕を掴むみちるの手に、ぎゅっと力が篭った。暗闇の中で見開かれた瞳から、涙が一筋零れる。今日は自分の中にある涙という涙を全て出し尽くしたような気がしていたのに、まだまだ溢れてくる。
「こっちを向いて」
はるかの呼びかけに、みちるは躊躇うように首だけを動かした。それだけでははるかのことを視界に捉えることができず、みちるは迷いながら、視線を元に戻した。
――今、はるかの方を向いたら。
たぶんもう、戻れない――そんな思いがあったから、みちるはそちらを向けずにいた。
「みちる」
はるかがみちるの耳許で――ウラヌスの魂が転生してから――、初めて、みちるの名を呼んだ。みちるは思わず身体を震わせる。
「はるか」
みちるはとうとう身体をゆっくり回転させ、はるかの方を向き直った。一対の瞳が、わずかな光を反射して輝くのが見える。朧げに見えるその表情は、意外なほどに悲しげだった。
みちると向き合ってもなお、はるかはみちるの背中に腕を回し、抱いたままでいた。しばし二人は見つめ合う形になる。やがてはるかはその腕に力を込めてみちるを自分の元に抱き寄せようとした。
「だめよ」
みちるが素早く反応し、首を振った。
何故? というような表情で見つめるはるかに、理由を告げようとしたが、上手く言えなかった。
私はあなたの中に、はるかを求めているから――。
それを口にしてはるかを拒否すれば、それははるかの中にいるウラヌスを否定することになる。
「僕だって似たようなものだ」
うつむき加減で黙っていたみちるに、はるかがまた囁いた。みちるは少しだけ顔を上げる。
「僕も、君の中にネプチューンを見ている」
ずっと囁いていただけのその声は、この時、驚くほど悲しげに聞こえた。明るいところでは蒼碧色をしていたはずの瞳の色は、今は真っ暗な海の底のように深く、哀しい色だった。
「だからおあいこだ、というわけにはいかないと思うけど」
はるかは苦笑いをした。その顔ですら、今は悲しみを伴っている。
「ただ、気に病むことはない。そう言いたかった」
みちるははるかの瞳の奥にある海をじっと見つめていた。やがてまた、震える声でこう言った。
「違う」
みちるはふるふると首を振った。
「違うの。それだけじゃないの」
みちるが恐れていたのは、はるかの中にいるウラヌスにはるかの姿を見出し、ウラヌスを否定してしまうことだけではない。むしろ真意はその逆だった。
今ここではるかを求めるあまり、ウラヌスを受け入れれば。
それはかつて――遥か昔、二十世紀で自分が戦士として覚醒する前に――恋焦がれ、夢に見たウラヌスを認めることになる。
もしいま自分がウラヌスに溺れれば、今度は自分の中からはるかの存在を消してしまうことになりかねない。
つまりみちるは。
今のはるかのことを受け入れても、拒否しても、罪の意識に苛まれることになる――そう、思っていた。
「なんで……」
みちるはまた大粒の涙を零しながら、声にならない小さな声を発した。
「私にとっては、二人とも大切な存在なのに……」
みちるは目を閉じて静かに、涙を流していた。はるかとウラヌスのことを考えていると、ただただ悲しくて、苦しかった。
そっと、みちるのまぶたに何かが触れた。羽が触れるかのような優しい感触で、溢れた涙を掬うようにみちるの目尻を撫でる。はるかの唇が触れたことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
みちるは目を閉じたまま、黙ってそれを受け入れていた。一回一回の動きが、みちるを癒し、撫でているかのように感じられた。
やがてその動きが止まり、とうとうはるかの唇が、みちるに押し当てられた。柔らかく、温かい、湿り気を帯びた唇は、紛れもなくはるかの唇だった。そしてその動きは、はるかの中にいるウラヌスが最大限の優しさを尽くして触れてくれているものだと、みちるは感じとっていた。
そんなことをされたら、私はもう――。
みちるの頭の中にそうよぎった瞬間、まるでそれを合図にしたかのように、はるかの舌がそっとみちるの唇のラインをなでてきた。みちるは応えるように、おずおずと自らの舌先を出す。温かく柔らかい舌同士が触れた。
はるかの舌がみちるの口内に侵入する。はるかは一気に責め立てたい気持ちを抑えながら、優しさの限りを尽くして、口の中を探る。はるかはいつの間にかみちるを自らの胸にぐっと押し付けるように抱き寄せていた。背中に回した手にぎゅうと力を込める。
本当はもっと激しく、強く、衝動のままに求めたい。
でも今そんなことをしたら、彼女は壊れてしまいそうだ――。
前世のウラヌスがネプチューンを愛した時に、これほど優しく愛おしむように抱いたことがあっただろうか。そう疑問に思えるほどに、今のはるかは、大切なものを扱うような動きをしていた。
これははるかの身体が覚えている動きなのかもしれない――。
二人の唾液がどちらのものともわからなくなるくらいに混ざり合い、溶け合って流れるほどに口付けを繰り返した。どれだけ混ざり合っても満足しない行為をようやく終え、はるかがゆっくりと唇を離す。
暗闇に慣れてきた目で改めて見ると、潤んで揺れるみちるの瞳が、熱を込めてはるかを見つめていた。ほんのりと上がった息遣いにも温かみを感じる。そこに拒否の色が見られないことを悟ったはるかは、みちるの首元に自らの口を埋め、下から上にそっと舌を這わせた。
「んっ……」
ぞくぞくとした感覚が一気にみちるの背中を這った。
「だめ……」
言葉とは裏腹に、身体の中にはどうしようもなく期待感が生まれていることに、みちるは気づいていた。だけど頭の中にはまだ理性も残っていて、先に進むのを止めようとしている。
はるかの舌は首を這い、耳を舐める。激しく責め立てるよりは、優しさを伴った柔らかい感覚で。もどかしさすらも感じる動きに、みちるはとうとうはるかの首に腕を絡めた。
「んっ……ああ……はる……」
荒くなる息遣いの隙間から思わず漏らしかけた言葉に、自らはっとした。
自分がいま求めているのははるかなのか、それともウラヌスなのか。名前を呼ぶことで、一方を受け入れ一方を拒否することになるのではないか――。
はるかを受け入れようとしていたみちるの心に、また戸惑いがじわじわと広がってきた。みちるの反応に変化を感じたはるかは、動きを止めてみちるの瞳を見つめる。
「……心が向くままに、呼べばいい」
はるかは一言、そう言った。みちるは戸惑いの色を浮かべたまま、目を見開いてはるかを見つめ返す。
「はるかでも、ウラヌスでも。ただ、いまは目の前の僕に集中してくれればいい」
はるかはそう言いながら、みちるのネグリジェのボタンをひとつひとつゆっくりと外していった。みちるがどうすれば良いのか迷っている間に、下着も含めて上半身に身につけていたものは全て外され、みちるの艶やかな肌が露わになっていた。はるかは大きな膨らみに手を添え、ゆっくりと感触を確かめるように揉む。先端はすでにつんと尖って主張し、はるかに触れられるのを待ち望んでいるかのように見えた。はるかが指先で先を摘む。
「……っ」
みちるが軽く唇を嚙み、顔を逸らした。
羞恥と快感の狭間で揺れ動くその表情は、はるかにネプチューンの姿を彷彿させた。使命の合間の、束の間の逢瀬。戦いでいつ命を落とすかもわからない緊張感の中、互いの存在に希望を見出していた頃。欲望に溺れている場合ではないとわかっていながら、それでも求めずにはいられなかった――。
――今の彼女は、あの頃のネプチューンに似ている。
「ネプチューン……」
はるかは合間に彼女の名を漏らし、乳房の先を舌で舐め、吸った。みちるの身体がびくりと反応する。片手の指先で片方の乳房を愛撫し、もう片方は舌によって責められる。
「はぁ……んっ……」
はるかに触れられる喜びを全身で感じているにもかかわらず、みちるは素直にその快感に身を委ねられずにいた。きっと身を任せれば楽になれる、何も考えなければいい――自分の中でそう囁く声は聞こえたが、あと一歩みちるは前に踏み出せず、感じるままに声を出すことができなかった。
みちるが迷う一方ではるかは、みちるを求めれば求めるほどに、自分に歯止めが効かなくなってきていることを感じ始めていた。
今はもう、あの頃とは違う。目の前にいるのもネプチューンではない――。
――それなのに今の自分は、あの頃のように、欲情のままに、みちるを愛してしまおうとしている。
「ひっ……あっ」
突然鋭い小さな痛みが肌に刺さり、みちるは思わず小さな悲鳴を上げた。はるかははっと我に返る。顔をあげると、みちるの柔らかな膨らみの少し上が、湿り気と共に赤みを帯びているのが見えた。
「ごめ……」
はるかが謝りかけて、静止する。先ほど綺麗に掬い取ったはずなのに、またぽろぽろとみちるの目尻から大粒の涙が溢れ出していた。
「ごめん、痛かった?」
はるかが慌てて聞くと、みちるが大きく首を振った。腕を顔に当てて隠すような仕草をする。
「ちが……ちがうの……ごめんなさい……」
小さな声で、みちるは否定する。だけどはるかにはそれが痛ましさを伴っているようにしか聞こえず、どうすれば良いのかわからなかった。
せめてもの償いを……と、おずおずとみちるの頭に触れ、優しく撫でる。
「はるかがいないのに、私、まるで喜んでるみたいで……」
隠した腕の隙間からのぞくみちるの瞳が、はるかにはきらりと光って見えた。
「いや……そんなの……」
悲しげな声と吐息が漏れる。
「みちる……」
はるかはみちるを愛撫するのも、頭を撫でるのもやめた。ただ上からふんわりと包み込むように抱きしめる。
――僕がかつて、ネプチューンにしてやれなかったすべてを。
優しく抱き、愛おしむということを……ウラヌスが何千年も前に果たすことができなかったことを、いま、はるかとしてやろうとしている――。
初めての感情だった。熱く求め合い、刹那の喜びを得ることだけが全てだと思っていたあの頃に、もしこうやってネプチューンを愛することができていたら、何か変わっていただろうか――はるかの心の中に、ほんの少しだけ過去を顧みる気持ちが浮かんだ。
しばらくそのままみちるを抱きしめていたら、呼吸が落ち着くのがわかった。はるかはゆっくりと顔を上げ、再びみちるに口付けた。
「はるかはここにいる」
みちるに向けて、はるかが言い聞かせるように呟く。腕をよけたみちるはもう泣いていなかったが、涙に濡れた目尻が光っていた。みちるが小さく、本当にわずかに顎を引くように頷き、はるかに受け入れる意思を見せた。
はるかが自らの身体をゆっくりと後ろにずらし、みちるの足のあいだに潜り込んだ。身につけていたものを取り去って、みちるの膝を折り、中心を露わにする。みちるは恥じるように顔を逸らしたが、止めようとはしなかった。はるかは中心部に指を触れて確かめ、それからゆっくりと舌で舐めとる。
「ああ……んっ」
みちるの足がぴくりと震えた。はるかは足を優しく持ち上げるように肩に乗せ、よく見えるようにしてから、もう一度優しく舌を往復させた。
「だめ……よっ……はずかしい」
腰を反らせ、暗がりでもわかるほどに蕩けた目つきではるかを見つめるみちるに、はるかは理性を全て忘れそうなほどに興奮を覚えた。
自分がウラヌスだから恥ずかしがるのだろうか。それともはるかの時であっても、いつも初々しく反応するのだろうか――。
ネプチューンとの逢瀬の、いつ引き裂かれるかわからない運命に身を任せていた時のスリルとはまた違った反応を、はるかは自分自身の中に感じていた。
はるかがみちるの中心にある蕾を舌で刺激し、吸うようにすると、みちるの腰がしなり、ひくひくと震えた。声がだんだんと高くなり、いつのまにかみちるの手が、はるかの髪を撫でるように触れていた。
その手が、刺激の強弱に合わせて握られたり離されたりかき回されたりして、はるかはみちるが全身で自分を感じていることに喜びを覚える。
みちるのそこは厭らしく水音を立てて吸われているにもかかわらず、なぜかはるかには恥ずかしいことをしている感覚がなかった。まるでこれは、みちるを清め、癒すために行っている儀式である……そう言わんとするかのように。
「はるか……」
何度か中心の蕾を吸い上げて、みちるが高い声を上げたあとで、みちるは荒い呼吸のすきまからはるかに手を伸ばした。
「手を……」
はるかはそれに応じて、左手を差し出す。細い指輪が、暗がりの中で鈍く光っていた。
みちるは恭しくはるかの手を取り、愛おしげに眺める。それから、自分の頬に押し当てた。涙と汗に濡れた頬は冷えてはいるがしっとりと滑らかで、はるかの熱った手にひんやりと感じられる。
「あっ……」
次の瞬間行われた行為に、はるかは思わずため息のような小さな声を漏らした。
みちるは自分の口に一番近い親指に舌を伸ばし、すぅっと滑らせた。ぞくぞくとした感覚がはるかの腕を駆け抜け、背中まで走る。
しっとりと温かくて柔らかな舌が指先まで歩き、それから根元に戻ってくる。それはまるで意思を持った別の生き物であるかのような動きに感じられた。
「みちる……っ」
はるかの体温が一気に上がった。みちるは一本一本の指を丁寧に舐め、薬指にかかる指輪ですらも清めるかのように舌で撫でた。
目を伏せ、恍惚とした様子でそれを続けるみちるの表情にも、はるかは目を奪われていた。みちるはまた少しだけ涙を浮かべていた。悲しみは湛えているが、どこか愛おしむように――それは、例え中の魂が変わっても自分の愛したはるかの身体が変わらないことを確かめ、愛しんでいるような――そんな表情だった。
気づけばはるかは、空いた方の手をみちるの中心に伸ばしていた。
「ん……あっ……」
はるかの指を咥えていたみちるの顔が歪むが、はるかは構わずに指先を押し付け、中心部を撫でた。本来であればみちるにじっくりと潤わせてもらったほうの指で触れたほうが、みちるにとっては優しかったかもしれない。しかし、視覚と触覚の両方からの刺激を受け、はるか自身がもう我慢できなかった。
傷つけないようなるべくゆっくりとそこへ侵入していくと、改めて潤わせる必要などまったくないくらいに、そこははるかを受け入れる準備ができていた。ゆっくりと出し入れをすると、みちるがはるかの指を温かく締め付ける。訪れた快感にみちるの口が緩み、時折はるかの手を愛でることを忘れそうになるが、それでもみちるはその手を離さなかった。
指にまとわりつく感覚があまりに心地よく、はるかははやる気持ちを抑えながらもう一本をそこに挿し入れた。みちるの中がきゅうと締まり、はるかを受け入れる。やや大きな動きで前後にゆっくりと動かす。みちるは目を閉じ、顔を歪めていた。腰から足にかけてを揺らしながら、荒い息を漏らす。
「ああっ……んっ……あっ」
みちるは相変わらずはるかの手を握っていたが、迫り来る快感の波に呑まれ、ただただ握るのが精一杯といった様子になってきていた。はるかはみちるの手に自らの指を絡めてやる。みちるがぎゅっと握り返した。
次第にみちるの頭は白くなり、何も考えられなくなっていった。目の前のはるかとウラヌスのこと――今だけは余計なことを考えず、ここにいるはるかに愛されるがままでいたい。
何よりもいま、自分の中を探るその指の動きは、もう、自分が好きだったあのはるかにしか感じられなくて。
「はるか、はる、か……あ……はるか……」
気づけば呼び慣れたその名前を呼び続けていた。
みちるが自分の限界を伝えるかのように、はるかの手をぎゅうっと握る。もう片方の手がシーツを握りしめるのが見えた。みちるに呼ばれ続けたはるかも、顔を寄せて囁く。
「いいよ……みちる」
名前を呼ばれた直後、みちるの声が掠れるように高く跳ねた。はるかが高みへ導くために内側を突く。
「はるか……ん……はる、はるか……ああっ」
最後に絞り出すような声をあげ、みちるの腰が反った。はるかの指が中で締めつけられる。
まるでみちるがもう絶対に離さないという意思を見せるかのように、繋がっている場所すべてで、はるかをぎゅうと捕まえる。
互いに絶頂感を迎えたあとしばらくの間、はあはあという荒い息遣いが重なり、静寂の中に響いていた。
みちるがベッドに沈み込んで力が抜けるのを待ってから、はるかはそっと指を抜いた。みちるが大きく息を吐き出す。不安も一緒に放出したかのように、少しだけ穏やかな表情になっていた。
涙に濡れた頬に、はるかが優しく口付ける。みちるははるかの腰に腕を回し、自らをぴったりとくっつけた。身体は火照っているのに、互いにじんわりとにじむ汗で肌は冷えていて、心地よさを感じるほどだった。はるかは愛おしげにみちるの髪を撫でた。
はるかはみちるが眠りにつくまで、ずっと抱きしめ続けていた。