「みちる、みちる」
――はるかに呼ばれる声がした。私だけに向けられる優しいアルト。私だけを包んでくれる声。
だけど今は、その声がどんどん遠ざかっていってしまうように感じる。
「はるか」
どうして離れてしまうの。どうして消えてしまうの。
「はるか、はるか」
名前を呼んでも、その声は全く響かない。まるで水の中にいるかのように、重く柔らかいなにかに阻まれているようだった。
その水の壁を手で叩き、かき分け、はるかの元へ行こうとする。姿は見えないけれど、きっとそちらにいるはずだ、と信じて。
だけどその前に、もっと柔らかくて温かいものに身体全体をふんわりと包まれた。
――はるか?