「キンモク星の戦士というのは千年経っても大したことないんだな」
地上に降り立つなり、ウラヌスは鼻で笑ってそう言った。ファイターはあからさまにむっとした表情で応戦する。
「そちらこそ。千年近く眠っていれば大人しくなると思ったけれど、全然そんなことないのね」
睨み合う二人の横で、ネプチューンがくすりと笑った。メイカーとヒーラーも呆れた顔で二人を見ている。
「ごめんなさいね。ウラヌスは千年経っても退屈しない人なのよ」
ネプチューンの言葉に、ファイターはウラヌスを睨むのをやめ、そちらを振り返る。
「あなたたち、何しに来たの?」
ネプチューンはその質問に、きょとんとした表情となる。まるで、何を改めて聞くことがあるのかというように。
「何しに……って。助けに来たに決まっているでしょう」
ネプチューンの言葉に、今度はヒーラーが返した。
「余計なお世話よ。私たちの星は私たちで守るわ」
「ああそうかい。じゃあ帰らせていただくよ。行こうネプチューン」
ウラヌスがすかさずそう返し、三人を背にさっさと立ち去ろうとした。ネプチューンはその背にため息をつき、ファイターをちらりと見る。
「私たちのクイーンからのお願いなの。受け入れてくださらない?」
ネプチューンの言葉に、ファイターがはっとした顔になった。
「クイーン……て、セーラームーン……」
ファイターの言葉に、ネプチューンは軽く微笑んで頷く。
ファイターの脳裏に、地球を去る直前に別れた月野うさぎの顔が浮かんだ。鈍感な彼女には最後まで自分の本当の想いが伝わることはなかったが、例え千年の時が経っても転生した身であっても、大切な人であるという思いは変わらない。
「彼女……元気ですか?」
「ええ。相変わらずよ」
ネプチューンが優しい視線でファイターに微笑み、答える。二人のやり取りの間にいつの間にか背後に戻ってきていたウラヌスも、先ほどよりも随分柔らかい声色でファイターに声を掛けた。
「全部終わったら、会いに行ってやれよ」
その言葉に、ファイターが何かを懐かしむような表情になった後、視線を伏せて頷いた。
「ちょっと。感傷に浸ってる場合じゃないわよファイター」
その場の空気を戻したのはヒーラーだった。顎をしゃくるように上空に向けてくいっと動かす。皆がつられてそちらを見上げた。
「また来ましたね」
メイカーがそちらを見上げながら、目を細めて言った。
「ちょろちょろとうるさい奴らだな。さっきだいぶ片付けたはずなんだけどな」
ウラヌスが腹立たしげに呟く。ウラヌスとネプチューンは、この星に着いた途端に周りを取り囲むように現れた無数の小さな敵に必殺技をお見舞いして、一掃してきたところだった。
「あの小さい敵じゃなくて、親玉は他にいるのよ。そっちを叩かなきゃ」
ファイターが悔しそうに歯をギリッと食いしばり、上空を睨んだ。ファイターの言葉に、ウラヌスはなるほど、と頷く。
「それならさっさと行くぞ。このままだとここも簡単に壊される」
「言われなくてもそうするわよ」
ファイターは鼻息荒く呟き、さっと駆け出した。ウラヌスと他の戦士たちもその後に続いた。
五人が王宮付近の建物の屋根に登ると、またかなり多くの敵が集まってきていた。そしてその敵が向かってくる方向から、一際大きな船のような黒い塊が二つ、こちらに向かってくるのが見える。
「あれが親玉ってやつか」
ウラヌスの言葉に、ファイターが頷いた。
「小さいのもすばしっこいけど、あの図体が大きいやつもなかなか動きが速くて手強いわよ。気をつけたほうがいいわ」
ファイターの言葉が聞こえているのかいないのか、すでにウラヌスは腕を上げて構える姿勢を取っている。
「言われなくても」
ウラヌスは呟きながら、自らの右腕に大きな光の玉を作り上げた。迷わずにそれを敵に向かって投げつける。
空気を切り裂き振動を轟かせながら、光球はまっすぐに二体の大きな敵に向かって行った。その過程で、小さな敵が次々に巻き込まれて砕けていく。
光球が対象を捉えようとした瞬間、二つの塊はシュッと上に動いた。ファイターの言う通り、その大きさからは考えられない素早さで光球を避ける。
「ちっ」
ウラヌスが舌打ちをした。
「気をつけてウラヌス。あの敵、ただものではなさそうよ」
ネプチューンがウラヌスの背後から声を掛ける。ウラヌスにも、敵が避けた瞬間にちらりと見えていた。
「ああ。アイツ……船じゃない、な」
まるでウラヌスとネプチューンの言葉が聞こえていたかのように、敵は変形を始めた。先程ウラヌスからちらりと見えたもの。それは、敵が自らの下部に隠した、「足」だった。今まさに敵はその足を伸ばし、さらに胴体と思われる箱状の塊の側面から、腕と見られる棒が突き出てくる。腕の先端には手のようなものもきちんとついており、それらが出たことで急に人型らしくなった。気づけば五人の目の前には、やや不恰好ではあるが角ばった人型ロボットのような形の敵が二体、前方に浮かんでいた。
「なるほどな。親玉様を乗せた船がやってきたわけじゃなく、あいつそのものが親玉様ってわけだ」
ウラヌスは吐き捨てるように呟いた。
「どっちだって関係ないわ。倒すまでよ」
ファイターが横に並んだ。ウラヌスはその姿を見もせず、再び片腕を上げる。ファイターも攻撃の構えを取った。
「ワールド――――」
「スター・シリアス――――」
二人が同時に叫んだ。示し合わせた訳ではないのに、絶妙なタイミングで同時に攻撃が放たれる。
「シェイキング!」
「レイザー!」
ウラヌスの光球とファイターの光線がまっすぐ敵に向かっていく。高出力で放たれた二人の攻撃はスピードも威力も高かったが、そのあまりの強さに、強い風圧で互いの攻撃が抑制されてしまった。攻撃のスピードが敵にぶつかる前にぐっと落ち、敵は難なく攻撃を避けてしまう。
「ああっ」
「なにっ」
敵がひらりと避けたのを見て、ウラヌスは初めてファイターの方を向いた。睨むような視線で叫ぶ。
「邪魔をするな!」
「邪魔したのはそっちでしょう!」
今にも掴みかかりそうな勢いの二人を、ネプチューンとメイカー、ヒーラーが止める。
「ウラヌス!」
「ファイター、やめなさい」
「全く、世話が焼けるわね」
ネプチューンとスターライツの二人がそれぞれを止めている間に、二体の大きな敵が手足を広げ、五人の元に浮遊してきた。
「全く、助けに来たなら仲良くやってよね」
ヒーラーがウラヌスに向けて言い放ってから、ファイターを引いて屋根づたいに跳び、向かってきた敵を避ける。メイカーもそれに続いた。
ネプチューンも、ウラヌスと共にファイター達とは逆方向に逃げた。両戦士たちの距離が一気に開く。
敵は、左右に別れた戦士たちのことは構わず、真っ直ぐに王宮に向かっていった。五人は図らずも、敵に道を明け渡したような形になってしまう。スターライツの三人の顔が凍りついた。
「まずいわ!」「そっちはダメ!」「プリンセスが!」
三人がそれぞれに口走り、一斉に敵の方へ向かった。ウラヌスとネプチューンも遠目からそれを確認し、三人を追う。