「海王様。海王みちる様。お部屋にお戻りでしょうか」
突然響き渡ったノック音に、みちるは身体をびくりと揺らした。みちるの唇を塞ごうと構えていたはるかも、思わず顔を上げる。
時計をちらりと見ると、みちるの余興の時間まであと数分だった。会場にみちるがいないことに気づいた担当者が、慌ててここに駆けつけたのだろう。
みちるは神妙な面持ちでドアの方を見つめていた。おそらくこの場は黙ってやり過ごそうとしているのだろう――その表情を見つめていたはるかが、ふと思いついたように口角を上げ、にやりと笑う。
「みちる、ちょっと声、我慢して――」
「えっ」
それはみちるが止める間もないほどに素早い動きだった。はるかは彼女の腰を掬い上げ、その中心に顔を埋める。
「はぁっ……!!」
思わず出てしまった声に、みちるは慌てて手で口を覆った。
「ん……むぅ……ぁ……」
はるかは構わず、舌先でみちるの中に隠れる中心部を探し当て、擦るように細かく動かした。みちるの腰ががくがくと揺れる。しっかりと抑えているはずの口元からも、ため息が漏れ出た。
「んっ……ああ、ふぅ」
「何か聞こえなかったか?」
入口付近から、先程とは異なる声が聞こえた。どうやら複数人で様子を見に来たようだ。彼らの話し声は小さく、静かに中を伺っているようにも感じられる。
はるかは耳だけをドアの方に傾けながらも、舌先の集中は切らさなかった。緩急をつけた動きで、みちるの芽を柔らかく撫で、吸うような動きを入れる。
「はっ、んぁ、ん」
「気のせいじゃないか。あー、でもどうするんだ。あと二分だぞ」
「とりあえずここにいないんじゃ、他を当たるしかないな」
みちるが細かく喘ぐ間にも、ドアの向こうからは依然として話し声が聞こえていた。
その息遣いの変化と、舌先に伝わる絶妙な震えを感じ取り、はるかはぎゅっとみちるの中心部を唇で摘んだ。
「あ、ああっ、んんっ――」
みちるの足が浮き上がり、間にいるはるかを捕まえる。はるかの舌は、痙攣するみちるの中心に飲み込まれそうになりながら、まだそこに置かれたままだった。はるかはみちるの足を支えながら、彼女の息遣いが落ち着くのを待つ。
みちるはぎゅうっと身体に力を込めたあと、大きなため息とともに脱力した。
みちるが落ち着くまで、いつもよりも少しだけ長く、時間をかけた。ドアの向こうからは、もう何も聞こえない。みちるがちらりと目線を上げると、時計の針が余興の予定時刻をとっくに超しているのが見えた。
「もう……はるか」
咎めるように呟いたみちるの唇を、はるかがまた塞いだ。まだみちるの甘さが残る舌が、口内をなぞってから、名残惜しさも感じさせるような動きで出てくる。
「君がここに来た時間を無駄にしたくない」
「え?」
はるかの言葉に、みちるは意外さを感じて、暫しその瞳を見つめた。見つめ返されたはるかは、逆に恥ずかしくなったようで、ぷいと横に逸れる。
「ほら、さっき言ってただろ。もう意味の無いことに時間は割かないって」
はるかの横顔を見ながら、みちるは頷いた。ベッドサイドのオレンジがかった照明で、はるかの頬と耳は温かい色を描いている。やがてはるかの視線はまた、みちるの元に戻ってきた。
「ここに来たことを無意味でつまらないものだと思うなら、僕が意味のあるものに変えたいってこと、さ」
みちるははるかの顔をきょとんと見つめたあと、ふわりと頬を緩めた。自分の上にいるはるかの首に腕を絡め、耳許にそっと囁く。
「じゃあ……もう少しかくれんぼを楽しむってことで、いいかしら?」
そう言ってみちるははるかの耳たぶを柔らかく食んだ。
不意打ちの甘い声に、はるかは思わず息を漏らす。
「……っ、本当、敵わないな」
「きゃっ……もう」
はるかは自分に絡められたみちるの腕をぐいと取り、彼女を下に組み敷いた。みちるは抵抗を見せながらも、その表情は明るく、やや悪戯っぽさが垣間見える。
その表情を見ていると、はるかは心に溜まった澱のようなものが、みちるに綺麗に掬われていくような気がするのだった。