啄むだけのその口付けは、まるで誘うかのようにみちるの唇を撫で、余韻を残したまま離れた。唇が離れたのを感じてみちるがうっすらと目を開けると、はるかがやや挑発的にも見える碧色の瞳で見つめているのが目に入る。
「こんなところで」
みちるが咎めるようにはるかに言うが、最初の口付けですでに自分の心の中には期待感が浮かんでしまっていたことに気づいていた。はるかに言ったセリフに全く説得力が伴っていないことを、自分自身でも感じていた。
「しばらく予約してるんだろ。誰も来ないさ」
そう言ってはるかは、ホワイトボードにみちるの肩を押し付けるようにして、再び唇を貪った。
みちるの身体が押し付けられたそこは、数枚のホワイトボードが重なるように置かれていて、動かないようになってはいるものの不安定だった。はるかが角度を変えてみちるにキスするたびに、みちるの背後がガタガタと揺れる。支えとするには心許ないそれに不安を感じ、みちるは思わずはるかの首に腕を絡めた。
はるかにはそれが、みちるが積極的に求めてきたかのように感じたらしい。みちるの背中に手を回し、強く自分の身体を押し付けた。と、同時に、唇の隙間から舌が押し込まれる。一気に息苦しさと熱さが増し、みちるは思わず息を詰まらせそうになった。
「んっ……あっ……んんっ」
息継ぎのつもりで漏らした息がみちるには妙に熱を持っているように感じられて、急に体温が上昇してきた。やめなければならないのに、これではまるで自分が誘っているみたいだ。みちるははるかから送られる熱を感じながら、それを強く押し返そうとした。
けれど、口から伝わってくるはるかの熱は、まるでみちるを溶かすようにどんどんと流れ込んでくる。それはみちるの感覚を痺れさせ、はるかを止めようとするみちるの意思さえもドロドロに溶かしていく。
長いキスの終わり、ゆっくりと離れていくはるかの下唇を吸ったら、みちるの唇の先から、ちゅ、と軽いリップ音が鳴った。
無意識だったが、まるでそれははるかが離れることを惜しんでいるような音だった。自分の意思とは異なるその音に自分でも驚き、みちるはさっと目を伏せる。
「なんだ。もっとしたかったの?」
からかうようにはるかに覗き込まれ、みちるは思わず目を逸らす。明らかに乱れた呼吸を悟られないように大きく息を吐くが、軽く上気した頬と潤んだ瞳は誤魔化せない。
「調査……するんじゃなかったの」
「……の割には、積極的だな」
はるかはみちるが絡めたままの腕をつんつんとつついて、口の端を上げるように笑う。みちるは顔を伏せたまま、頬を赤らめた。
その腕をがしりと掴まれたかと思うと、みちるの両腕ははるかの首から外され、体制が逆転する。みちるの目の前には先ほど触れた木琴が現れた。
「そうだな。じゃあまずはこの部屋の調査から……」
はるかがそう言いながら、制服の上着の裾をたくし上げ、中の膨らみに触れた。長い指で包み込むように掴み、リズムよく揉む。弾力のある膨らみははるかの手の中で柔軟に形を変えた。
はるかの手の中で弄ばれた両の膨らみは、はちきれんばかりに主張していた。はるかが下着を緩めると、解放を待っていたかのように弾け出る。先端ももうすでに敏感に尖っていた。
「あっ」
はるかが撫でるようにその先端に指を滑らせると、みちるは思わず声を漏らした。はるかはそうして両の先端を指先で弄びながら、みちるの耳の裏を舌で撫でる。
急に増えた刺激に、みちるは腰をくねらせて逃げようとしたが、後ろからがっちりとはるかに掴まれていて逃げようがない。急速に足から力が失われて震えるが、目の前にある木琴を支えにするのは躊躇われて、みちるはふらふらしながら立ち続けていた。
「んっ……はる……だめっ……」
うまく言葉にならないほどに、足元から、そして背筋を通って全身に快感と震えが走っていく。
はるかはみちるの抵抗には構わず、耳の内側にも舌を滑らせていく。
元々吸音効果の高い音楽室と、そこに隣り合った準備室は異様なほどに静かで、今はみちるの荒い息遣いとはるかの舌が発する音だけしか聞こえない。
もし今ここに誰か来たら、気がつけないかもしれない……。そう思うほどに、みちるの耳の中は厭らしい水音に支配されていた。しばらく誰も来ないとわかってはいても、誰かに見つかってはいけないという恐ろしさは胸のうちに引っかかっていて、それが逆にスリルとなって足元から迫ってくる。
はるかはへたりこんでしまいそうなみちるの身体を左腕で抱えるように支えながら、下腹部には右手を伸ばす。スカートを捲り上げて下着の上から中心に触れると、そこはすでにしっとりと湿り気を帯びて、はるかの刺激を待っていた。はるかは下着の上から指で撫でるように往復させる。
「はぁ……あぁ……」
ふるふると膝を震わせていたみちるが、とうとう我慢できずに、目の前の木琴の縁に手を乗せた。丁寧に仕舞われて出番を待つ楽器に、まさか自分たちのこんな行為のために触れるとは到底信じがたく、みちるは申し訳ない気持ちになる。
はるかはむしろ、みちるの体制が安定したことを喜ばしく思っていた。みちるを支えていたはるかの左腕が解放され、遠慮なく胸元の愛撫に戻る。右手ではみちるのスカートを腰までめくり上げて、下着を膝まで下ろしていた。
「よく見えるよ」
「や……やめてっ」
みちるが身体を前に倒したまま後ろに顔を向けて叫ぶが、はるかの顔はよく見えない。はるかの目の前には、形がよくハリのある尻から足のラインがあった。
芸術的とも言えるそのラインを右手で愛でてから、はるかはしゃがみこんでみちるの秘部を覗き込んだ。
「ヴァイオリニストのお嬢様がこんなところでこんな格好をしてるなんて、学校の連中が知ったら驚くだろうな」
「いや……だめ……」
普段人目に晒すことのない大事な部分をまじまじと見られていることへの羞恥に加えて、言葉でも責め立てられ、みちるは恥ずかしさで目をぎゅっと瞑り、首を振る。
はるかは自分でも不思議な気持ちを抱きながら、そこを見つめていた。みちるのことはとても好きで大切にしたいのに、みちるが恥ずかしがり、乱れる姿も見たい。傷つけたくはないけれど、ぐちゃぐちゃに乱したい。
どうやったらみちるが可愛く鳴いてくれるか。そのことを考えるだけで何か突き上がって来るような喜びが湧き上がってきて、自分に肉体的な直接の刺激があるわけではないのに興奮が身体を巡り、駆り立てられてしまう。
はるかはみちるの足の間に入り込むように座り、自分の顔を中心部にゆっくりと近づけた。ぬらぬらと濡れて光るそこを、蜜を求める蝶のように丁寧に吸う。
「ひゃっ」
みちるが驚きと共にまた全身を震わせ、喉を反らせて声を上げた。中心の硬い蕾を直接吸われて、電流が走ったように身体に刺激が駆け抜ける。止まることを知らないほどに溢れ出る蜜を、はるかは繰り返し、吸い取る。
「あぁ……んっ……ぅ……」
はるかの動きに合わせ、みちるも足を震わせながら喘ぐ。時折自身の声の大きさに恥ずかしくなり制服の袖口を噛んで耐えるが、迫り来る快感には抗えず、緩んだ口元からはまた甘い息が漏れる。
熟しきった果実のようなその中心部は、はるかの刺激を受けて柔らかく蕩けていく。はるかは舌を伸ばして溢れ出た蜜を味わうように舐め取った。
みちるが四つ這いに近い姿勢のまま自分の足元に視線を送ると、自分の中心に口をあてがうはるかの頭が見えた。想像していたよりも遥かに羞恥を煽るその光景に、みちるは思わずはるかの名を呼ぶ。
「はるかっ……だめ、そんな、あぁっ」
みちるに呼ばれ、はるかは後ろ手をつき、仰ぐようにみちるに顔を向ける。口元はみちるのそれで艶を持っていて、厭らしい光を放っていた。
みちると視線が合ったはるかは、口元を歪めてニヤリと笑う。その顔を見た瞬間、みちるの背筋がゾクリと震えた。
……ああ。この人は。楽しんでいるんだわ。
逃れられない。
だけど、その表情に見蕩れてしまう自分もいる。さらには、あの低く落ち着いた声で辱められたい、その長く美しい手で乱されたい……そんな願望が自分の中に浮かんでいることに気づいて、みちるは目を瞑って首を振った。
「恥ずかしい?」
みちるの様子に気づいて、はるかが嬉しそうに言う。みちるは声を出さずにこくこくと首を動かして頷く。
「もっと鳴いてみせてよ」
はるかがみちるの足元から滑り出て、再び背後に回った。細い指先でみちるの秘部のラインをなぞり取るように撫でる。
「もっとみちるの声が聞きたいんだ」
「ああぁっ!」
力を込めて一気に挿入された指を、みちるは腰を波打たせながら飲み込んだ。みちるはそこで軽く達したようで、はるかの指はきゅうと締められた。
はるかはひくひくと疼くように動く内部を感じながら、その動きが落ち着くのを少し待つ。一度締まったそこが少し緩んだことを確認してから、ゆっくりと指を動かし始めた。
いつもと違う体勢のせいだろうか。はるかの指の角度や動きもいつもとは異なって感じられる。浅い出し入れと時折深い挿入を繰り返し、緩急をつけてやってくる刺激に、みちるの快感も波の満ち干きのように満ちては引き、を繰り返した。
快感の波が満ちてくる時は、まるで脳内に閃光が走ったかのように目の前が真っ白になり、はるかの指の動きしか考えられなくなる。
「あっ、んっ、はる……かっ」
目に涙を滲ませながら、はるかの名を呼んだ。先程はるかが吸いつくしたと思われるほどに味わった蜜は、今なお溢れ続け、はるかの手をぐっしょりと濡らす。
しばらくそうやって刺激を与え続けてから、はるかは一度指を抜いた。中心からはとろりとした蜜と、それをまとったはるかの長い指がぬるりと出てくる。みちるは相変わらず木琴の縁に体重を預けながら、はあはあと荒い息をついていた。
「もう……だめ、はるか……私……」
「何、みちる。ちゃんと聞かせて」
「ああ……はるか……」
みちるが目をぎゅっと瞑ると、涙が床に向かって流れ落ちていった。
はるかは覆い被さるようにみちるの耳許に口を近づけて、囁く。
「みちるの声でちゃんと聞きたい」
いかにみちるを満足させるか。そればかりを考えながら発するはるかの声は、みちるのうなじから背筋にかけて新たな刺激となって駆け巡る。
みちるは震える上半身を支えながらはるかを振り返って、振り絞るように言った。
「お願い、はるか……イかせて……」
みちるが言い終わるのを待つか待たないか、はるかは再びそこに指を滑り込ませる。先程はるかによって十分に解されたそこは、再び差し込まれた指をずぶずぶと飲み込んだ。
はるかは先程よりもやや早いピッチで手を動かし始めた。みちるの嬌声も一段階高く変化する。
「――あああぁっ」
「……っ、みちる」
みちるがぎゅうぎゅうと指を締め付けてきて、はるかも指先に全意識を集中する。腟内の中ほどを何度か擦りあげると、みちるが鋭く高い声をあげた。
間もなく、今日みちるが何度も味わった打ち寄せるような快感の波が、急激に大きく膨れ上がって襲いかかってきた。再び閃光が走るような強い感覚が走り、みちるの頭は真っ白になる。
「はぁっ、あああっ、あぁっ――――」
みちるの嬌声が絞り出されるように掠れ、同時にはるかの指がぎゅぎゅっと締められた。がくがくと膝を震わせながら、みちるは頂点に達した。
静かな部屋に、二人の荒い呼吸音だけが響く。みちるの力が抜けてきたのを見計らって、はるかは中に残していた指を、ゆっくりと抜いた。中からは温かい蜜が溢れ出し、みちるの足を伝う。
思わず足の力を緩めて座りこもうとしたみちるを、慌ててはるかが支えた。
「あっ、待って、汚れるから」
はるかはまたみちるの下に回り込んで、流れ出た蜜を綺麗に舐めとった。先程までの強い刺激とは異なる、やわやわとした温かく鈍い刺激が、みちるの内腿に伝わる。
――散々私のことを辱めてきたくせに、急に優しくなるのね。
先程までが嘘のように、慈しみを込めて自分を気遣うはるかに、みちるは思わず自嘲するような笑みを零す。
おそらくこれは自分しか知らないはるかの姿。自分はこの人の前ではなすがままにしかなれない。これが自分が惚れてしまった人なのだ……。
音楽室の方からチャイムが聞こえてきた。ハッと顔を上げて壁の時計を見ると、ちょうど予約の終了時間になっていた。
「うわっ、まずいな」
はるかが慌てて立ち上がり、みちるの下着とスカートを元に戻す。みちるがゆるゆると身体を起こすと、はるかはさらりとエスコートするように手を貸した。
次の予約者が音楽室のドアを開けて中の様子を確認しに来たのと、二人が音楽準備室のドアを閉めるのと、ほぼ同じタイミングだった。
「あ、次の予約しているんですけど……」
「ああ。もう大丈夫だよ」
はるかがにっこりと笑って、次の予約をしているという女子生徒に微笑む。みちるはその様子を、はるかの半歩後ろに隠れるようにしながら見ていた。
「あ、あの! 学園祭の練習ですか? 私すごく楽しみにしています! 頑張ってください」
「ありがとう。見に来てね」
みちるからは見えなかったが、はるかは女子生徒にウインクを返していた。おかげで女子生徒はすっかり興奮状態になり、二人がなぜ音楽準備室の方にいたのかは全く気にしていないようだ。
そそくさと音楽室を出てから、はるかはみちるの耳許に顔を寄せ、囁いた。
「ねえ。次はどこで調査する?」
その言葉にみちるは、白い頬と耳を一気赤く染めた。
「……バカね。帰るわよ」
「ちぇ」
――本当に私は、この人には敵わないわ。
はるかではなく自分に対して呆れながら、みちるはため息をついた。