ここに来るのは久しぶりだった。
三十世紀の、クリスタル・トーキョー。私は緊張を隠せないまま、久しぶりにキングとクイーンの元に出向いた。
「プルート。どうしたんだ」
「まあ。久しぶりですね。」
キングとクイーンの第一声は、私の帰還に驚く言葉だった。
「お久しぶりです、キング。クイーン」
私は跪いて二人に挨拶をする。
「急に帰ってきて、どうしたんだ。二十世紀で何かあったのか。」
キングが尋ねる。私は静かに首を振った。
「いいえ。サターンの養育も終わっていますし、ウラヌスとネプチューンの二人も新たな生活を始めようとしています。私の二十世紀での役目は終わりましたから」
淡々とそう説明したが、キングとクイーンはまだ少し困惑した表情だった。
「それにしても急だったから、びっくりしたわ」
クイーンの言葉に、私は曖昧に微笑んで返した。
「そろそろ時空の扉の番人としての役割に戻る時がきたのです」
キングとクイーンは依然不思議そうな顔をしていたが、そうは言っても時空の扉に番人がいない状態が続くのも困るようで、私の帰還を歓迎していた。
久しぶりに扉の前に立つ。扉は相変わらず重厚な姿でそこに佇んでいた。
――また、当分はここで過ごすことになるだろう。
二十世紀の賑やかな世界に慣れてきたところではあったが、今再びここに戻ってきて、不思議と寂しいという感覚はなかった。確かに扉の前に立っている時は一人だが、仲間に会いに行こうと思えば会えるし、スモール・レディが会いにきてくれることもある。
何より、私は自分自身に新たな役目を課したから、これからはそれを全うしなければならない。だから一人でここに戻ってきたことに、なんら悔いはなかった。
目を瞑って、先ほどまでの出来事を考えていた。とても長い一日だったけれど、二十世紀から三十世紀への移動をしたせいで、今は時間の感覚も失われていた。
これからもはるかとみちるの傍にいるべきか――。
みちるの病院を出てから、ずっと考えていた。
みちるが新たな敵に対してこれほどの無茶をしてしまった以上、今後も傍にいて、二人を支えるべきではないか。戦えなくなった……いや、戦うのをやめさせたみちるの分まで、自分も二十世紀で戦士としての使命を全うすべきではないか。
最初はそう考えていた。
けれど、先ほど海の傍でしばらくはるかを眺めていて思い直した。
おそらく二人は、再び同じようなことが起きた場合、また自分の命を投げ打って相手を救おうとするだろう。それは今回の戦いだけに限った話ではないし、二人以外の身に危険が及んだ場合もそうすると思う。現に、ギャラクシアとの戦いの際も、自分たちの命を顧みない戦い方をした。
ギャラクシアとの戦いでは、もはや二人だけの問題ではなく、地球や銀河を懸けた戦いだったから、私もそうするしかないと思った。
だが今回のように、二人のどちらかの身に危機が迫った場合――。
本来必要のない決断を二人にさせるような真似は、もう二度としたくなかった。
しかし私は、二人を止める自信が、ない。
自分の力が及ばないことが悔しいけれど、二人はそういう関係なのだ。
決してその関係性や戦い方が悪いことだとは思わない。でも。
――彼女たちはお互いを思うばかりに、お互いが望まないことをしている。
目を開けて、時空の扉を見上げた。ずっと隣にあった、私に一番近い存在であるこの扉。
この扉からは、いつの時代のいつの様子も確認ができる。誰よりも早く危険を察知し、対処することができる。
もし、次に彼女たちの身に危険が及ぶような出来事を感じたら。その時は――。
私はガーネット・ロッドを握った。
私が自分自身に課した、新たな役目だ――。