いつの間にか運ばれた私の寝室で、夜が明けるまで二人寄り添って寝た。はるかの温もりを感じながら眠る夜は、ただただ優しい時間だった。私は久しぶりに夢を見ないで眠ることができた。
「まさか本当に、”今夜は帰さない”つもりだったなんて、思わなかったわ」
「帰さない、というか、僕が帰らなかっただけだったけど」
朝起きてから、私たちはお互いをすっぽり包むように抱き、笑いあった――。
そこまで思い出して、私は目を開けた。目の前に、高い天井が見える。大きな窓から、朝の光が差し込んでいた。プールの水面が、窓からの光を反射してきらきらと煌めいている。
私は、以前海に出かけた時に拾った、大きな貝殻を手に取った。一人で考え事をしたい時や、遠くに行きたい気分のとき、私はそれを耳に当てて、海に似た音を聞く。
――思い出すだけで温かくなれる記憶があって、良かった。
波の音を聴きながら、目を閉じて、何度でもあの日の記憶を反芻する。
「ずるいじゃないか」
はるかの声がした。目を開けると、決意を秘めた瞳が、私を覗いていた。
「今朝、夢を見たの」
はるかにそう告げる。
今日、タリスマンが現れる。
そして私は――。
私は、何も言わずにはるかに向けて微笑んだ。また、あの日のことを思い出しながら。
――もう、怖くないわ。
私には、あなたと通じ合えた記憶があるから。
「少しだけ、泳いでくるわね」
デッキチェアから身を起こし、私は羽織っていたシャツを脱いだ。
「君は本当に、水の中が好きだな」
はるかは微笑んで、そのシャツを受け取る。
その笑顔に、またあの日の記憶を重ねながら、私は深い水の中に潜っていった。