その日はるかは、幾多もの数えきれない印をみちるの身体に残した。時間をかけてみちるの全身に隈なく触れ、外から見える場所にも服で隠れる場所にも、あらゆる場所に痕を刻んだ。つい数週間前までは、外から見える場所にあからさまにつけることについてみちるははるかを咎め、拒んだものだけれど、今夜はそうしなかった。
はるかはみちるを何度も突き上げた。幾度となく頂点を味わっても、みちるははるかを求め続けた。何度求めても足りないと思った。はるかもみちるを手放したくないと思った。二人は身体の中で激る熱が尽きるまで、何度も求め合い、愛し合った。
永遠とも思えるほど長い時間二人で愛し合ったあと、とっぷりとした幸福感と疲労感に包まれながら、二人は古びたシーツの上で手を繋ぎ、横たわった。高級感とはまるでかけ離れた暗く狭いホテルの一室は、現実離れした世界に二人だけを切り離してくれたような気がして、むしろみちるの心を落ち着かせた。
「この先、ぼくと一緒に歩くなら、荊の道になると思う」
発せられた内容とは裏腹に、ずいぶんと穏やかな表情で、はるかは言った。数時間前まで怒り狂い、猛々しく暴風を吹かせていたのに、今は嵐が過ぎ去ったあとのように澄んだ瞳をしていた。みちるは静かにこくりと頷く。
みちると繋いでいた手を離して、はるかは身体を起こした。みちるもそれに倣い身体を起こす。
二人はベッドの上で向き合った。
はるかは改めて、みちるに手を差し出した。
一緒に行こう、と口にはしなかった。それがみちるにとって、簡単な決断ではないとわかっていたから。
それでも自分の精一杯の覚悟で、みちるを奪還することにした。
これからみちるが、築き上げてきた多くのものを犠牲にして自分とともに歩むのか、それとも生家に頭を下げて改めて婚約者と結ばれるか。
それは彼女自身が決めることだ。
碧い瞳が、柔らかく弧を描いて微笑んだ。
はるかの脳裏に、死を覚悟して敵地に乗り込む直前のかつての彼女の姿が蘇る。覚悟を決めた時の彼女の姿だ。
そしてみちるは右手を――――。