「……はるか」
夜も深まり、月明かりは角度が変わって見えなくなってきた頃に、みちるは再び目を開けた。はるかに抱かれる形で、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
「みちる」
幾分暗くなった部屋にうっすらと光る瞳に、はるかは微笑んだ。みちるは安心感に包まれ、頬を緩める。前日の朝には、同じように目覚めたみちるが顔色を変えてはるかの傍を離れたことを思うと、あれは嘘だったのではないかと思う変わりようだと、はるかはこっそり思った。
みちるははるかにそっと腕を沿わせ、身体を寄せ、耳許に向けて囁いた。
「好きよ、はるか」
あまりに自然に、そしていつも通り紡がれたその言葉に、はるかは思わず目を瞬かせる。
「もしかして」
みちるに記憶が戻ったのではと錯覚し、目を丸くしているはるかに、みちるは慌てて首を振った。ごめんなさい、違うの、と前置きしてから、こう告げる。
「はるかが大切な人だということ、私、ちゃんと覚えていたわ」
その言葉に、はるかは言葉なく頷いた。
もう二人にとって、過去の記憶などどうでも良かった。二人の想いは心の底で繋がっていることがわかったから。これから何度離れても、どんな困難が襲っても、また二人は恋に落ち、結ばれるのだろう。そう、実感したのだ。
仄暗い部屋で見つめ合う。今日幾度となく交わされた口付け。互いの肌を滑る手のひら。碧の瞳の煌めき。
これから始まる新しい恋に胸をときめかせながら、二人は寄り添い、闇夜の波音の中に溶けていった。