目が覚めてもなお、夢は続いていた。そしてそれは、夢のように幸せで非現実的でありながら、夢ではなく現実のこととして目の前にあった。
瞼を開ける前から腕に感じる温かな重み。鼻腔に届く甘くくすぐったい香り。頬を緩めながらゆるりと腕を動かすと、細くしなやかな身体のラインが指先に感じ取れる。何回か撫でるよう往復すると、腕の中にいる彼女がぴくりと動いたので、はるかはうっすら目を開けてみる。
「おはよう、みちる」
「……おはよう、はるか」
恥じらいの残る視線ではにかむみちるに、昨夜の情事の名残を感じ、愛おしさからまたキスをする。挨拶程度の軽い口付けのつもりだったのに、みちるの唇や舌を存分に味わっていたらつい止められなくなり、次第に深く甘い口付けに変わっていく。そのままの流れで肩を抱き胸元に触れようとしたら、ついにはみちるに腕を掴んで止められた。
「はるかったら……もう、こんな朝から」
瞳を潤ませて頬を膨らませる彼女は、控えめに言っても可愛らしく、そして欲情を湧き立てるのに十分すぎる艶やかさがあり、はっきり言ってとてもエッチだとはるかは思った。
「朝も夜も関係ないよ。僕はいますごくきみが欲しい」
真面目な顔でそう言って見せると、まさかみちるはそう返されるとは思っていなかったのか、今度は戸惑ったように頬を赤らめた。
「せっかくはるかとふたりで過ごせる夜だったのに、ずいぶんゆっくりと寝てしまって……。それにわたし、昨日は自分ばかりで、はるかにしてさしあげられなかったわ」
「ぼ、僕?! いいよ、それは」
みちるからの思わぬ返答に今度ははるかの方が戸惑い、慌てて首を振った。
「僕はみちるを乱してる時に、最高に気分が良かったからね」
みちるにその気になられては困る、とはるかはさらりと耳許で囁くと、みちるの答えを待たずに自らの唇で彼女の口を塞いだ。今度はみちるに止めさせるつもりはないと言わんばかりに、彼女の手にしっかり指を絡め、口内を丁寧に舌で愛撫する。二人の吐息が再び熱と色を帯び始めるのに、そう時間はかからなかった。
「……いいのね? わたしたち、ずっとこうしていて。これは夢じゃないのよね」
はるかの唇が離れて、その指が再びみちるの肌を愛で始めた時、ふと、みちるがそう呟いた。それははるかに問うていると言うよりは、自分自身に言い聞かせているような言葉にも感じられた。
「ああ、夢じゃないさ」
はるかは確信を持って微笑み、頷いた。
ふたりが見て、触れて、感じたこと。すべてが夢ではなく現実であり、そしてこれから先ふたりで紡いでいく未来のひとつなのだと。
「これからは、ずーっとふたりだ」
実感を込めたはるかの言葉に、みちるは穏やかに微笑む。
はるかとみちるはまたともに、ふたりだけの甘い世界に溶け落ちていった。