久しぶりに、夢を見た。
空が暗く、淀んだ空気に包まれていた。夢にしてはあまりにリアルで、重々しい。街は冷たく、人の気配はまるでなかった。ここにいるのは自分ひとり。
「誰かいないのか」
発した声は、全く響かなかった。まるで目の前に見えない壁でもあって、跳ね返されてしまうかのよう。
歩いて周囲を探索してみようかと思ったが、いくら足を前に進めようとも、ちっとも進んでいる気がしない。心と身体が不一致で、連動していない。夢の中にいるとわかっているのに、目覚めることもできない。
ふと上空を見上げると、空が随分と近くに迫ってきていた。まるで自分のいる空間を押しつぶし、小さく縮小していくように、空がぐいぐいとこちらに向かってくる。その光景にひどく圧迫感を感じるのに、逃げることができなかった。ただ、その場に立ち尽くす。
――そうだ、これは……あの夢と雰囲気がよく似ている。世界が崩壊に近づいていた、あの時の夢と……。
はるかがはっと目を開けると、薄暗い部屋の天井が見えた。首だけを動かして、壁に掛けられた時計を確認する。朝と呼ぶにはまだ早いらしい。しかし、夜中と言うにはやや遅い時間。ゆっくりと寝返りを打とうとすると、全身に汗をかいていることに気づいた。
こういった夢は久しぶりだ――はるかは今しがたの夢を思い出した。
世界の崩壊を予感させる夢。つい数ヶ月前まで、はるかとみちるはこの崩壊を止めるべく、その使命に全力を注いでいた。先程見た夢は、その使命を予感させ、自覚させた頃の夢と雰囲気が良く似ていた。
しかし、世界は崩壊の危機から救われた。セーラームーンの尽力で地球に巣食った敵は倒され、沈黙の鎌は振り下ろされずに済んだのだ。この世を終わらせる元凶と思われた滅びの戦士は純粋無垢な赤子の姿になった。
すべて、終わったのだ。
あの時だって、自分よりみちるのほうがよく夢を見ていたはずだと、はるかは認識していた。はるか自身はあの頃もあまり頻繁に夢を見ることはなかったし、一つ一つの夢も短く曖昧なことが多かったのだ。一方でみちるは、より長く具体的な夢を見ていたとはるかは聞いていた。彼女は見た夢を絵画で表現することも多かったから、具体化された絵によるイメージの強さも印象に残っていた。
だから、はるかは久しぶりに見た悪夢に以前よりも強い恐怖を感じた。空気感を肌で感じるほどリアルな光景を見て、全身に鳥肌が立っていた。
もう一度寝直そうかとも思ったが、こんなに心臓が高鳴って汗をかいた状態で眠れるはずなどなかった。ブランケットからこっそりと這い出て、リビングに向かう。どうせ今日はオフだから、日中気持ちが落ち着いてから仮眠を取り直すのもいいだろう。
そんなことを思いながら、はるかはシャワーを浴びにバスルームへ向かった。