ずいぶんと早い時間に目が覚めてしまった。うっすら目を開けると、カーテンの向こうが薄ぼんやりと明るくなって来たところだった。
ついこの前……メシアが現れて、世界が沈黙から救われる前―、あの頃は戦いの後、明け方に帰宅することもしょっちゅうあったのに。
今は……。
隣ですーすーと寝息を立てるはるかに視線を移す。安心しきった顔で寝ているところを見ると、思わず私の顔も綻んでしまう。
戦いの日々が終わった私たちは、二人それぞれが住んでいたタワーマンションを出て、少し離れた静かな街に新たな居を構えた。使命は終わり、一緒に過ごす必要はなくなったのだが、どちらからともなく自然な流れで一緒に住むことを決めた。
「私たちの関係って、なに」
聞いてしまったら崩れてしまうような気がして。だけど曖昧なままなのも嫌で。
一つの使命で繋がっていた私たち。一緒にいることは自分たちにとって自然なはずなのに、使命という目的がなくなってしまった瞬間、足元が脆く崩れ去ってしまうような気がした。
「今日さ……そっちに行ってもいいかな」
はるかにそう言われたのは、こちらに引っ越してきて三日目の夜……昨晩のことだった。
それまでは同じベッドルームに、以前までそれぞれの部屋で使っていた二つのシングルベッドを並べて寝ていた。
近いのに、遠い。二つのベッドの間の隙間がもどかしい。……そう思っていたのははるかも同じだったようで。
「いいけど……、狭くないかしら」
はるかの申し出に急に胸が高まって、思わず目を伏せてそう言ってしまう。
「構わないさ」
そうは言われたものの、二人で一つのシングルベッドに入るのはやはり少し狭かった。
自然な流れで、私ははるかに抱きすくめられる形になる。心臓がドキドキと高鳴って、きっとはるかに聞こえているだろう。恥ずかしくてとてもじゃないけど顔を上げられない。
私ははるかの胸元に顔をうずめていた。はるかから漂う爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。
「みちる、こっち向いてよ」
「……いやよ、恥ずかしい」
私ははるかの胸に顔をうずめたまま、ふるふると首を横に振った。
はるかはそんな私の頭に優しく手を触れて、囁いた。
「お願いみちる……僕も、その、恥ずかしいんだ」
意外な答えに、え?と顔を上げてみる。暗がりで見るはるかの顔は、ほんのり赤く染まっている。長いまつ毛の下に、キラキラとした瞳が覗く。
「でも、ずっとこうしたかった……」
背中に回されたはるかの手に、少し力が籠もった。
……強く、でも優しい手。
「はるか……」
私は縮こまっていた手をそっと伸ばし、はるかの頬に手を触れた。
はるかは意を決したように、私の目を真っ直ぐ見た。
「キス、してもいい?」
そんなこと、聞かなくたって。答えはYESに決まっているのに。
私がこくりと頷いたのを見て、はるかはぎこちなく、私の唇にキスをした。
昨夜のことを思い出したら、またドキドキする。
目元にかかるはるかの前髪が気になるけれど、触れても良いものか……と躊躇う。私の手が一瞬空を泳いで迷い、それからはるかの額に戻ってきた。
はるかの前髪を持ち上げて、そっと、キスをする。
はるかに聞こえそうなくらいの鼓動がしている。いつになったら、この生活に慣れるのだろう?
これから二人で過ごす日々を思いを馳せながら、私は目を閉じた。