「さあ、ミルクの時間よ。」
みちるがほたるに優しく声をかけ、ミルクをあげている。
僕はそれを横で見ていた。
デス・バスターズとの戦いが終わり、ほたるを連れて帰り、平和な日々が訪れていた。
ずっと戦いの連続で休まることがなかったが、ここ最近は二人……いやほたるも含めて三人で穏やかに過ごしていた。
「このまま親子三人、平凡に生きていくのもいいかもね」
みちるがこの前喫茶店で言った言葉だ。
あの時は冗談のように聞き流していたけれど、これから僕達は三人で親子のように暮らしていくのだろうか。
みちるはほたるのことをかいがいしく世話し、まるで本当の母親のようだ。
……本当に、それでいいのだろうか。
みちるは、戦士として覚醒せず僕と出会っていなければ、大人になりどこかの男性と恋をして、やがて結婚していたのではないだろうか。
そして自分と血の繋がった子どもを産み、育てるという道もあったのではないだろうか。
戦士として背負った宿命があったことは、僕がどうすることもできないことだ。
でも、僕とこのまま一緒に過ごすことは、彼女を縛り付けることにならないだろうか?
しかし、今目の前にいて愛情を注ぐほたるは、戦士としての戦いを経て出会ったのである。
戦士でなければ送れていたかもしれない人生。
戦士だったからこそ出会えた命。
……彼女にとっては、どちらがよかったのだろう。
「はるか、難しい顔をしているわよ。」
ほたるを抱きながら、みちるはこちらを見ていた。
どう言ったものかと躊躇いながら、口を開いた。
「いや……みちるは、これからどうしていきたいのかと思ってさ。
戦いは終わったし、普通の女の子の生活に戻ってもいいわけだし……
僕と一緒に過ごさなくたっていいわけだし。」
最後は言いづらくて、少し目を逸らしてしまった。
「……ふふっ。はるか、それ本気で言ってるの?」
みちるが優しく微笑んでいるが、直視できない。
「あなたは、どうしたいの?」
「僕は……みちると一緒にいたい」
みちるはほたるを抱いたまま、ミルクを置き、はるかの膝に優しく手を重ねる。
「私も同じよ、はるか。
あなたがいない人生なんて、つまらないもの。」
その瞳は真っ直ぐ僕を見つめていて、その中にこれから先の僕達の道が見える気がした。
そしていつものような余裕の笑みで君はこう言う。
「私が普通の女の子の人生を送りたいだなんて言うと思って?」
「……思わないさ。」
こちらに向けたみちるの唇に、優しくキスをする。
柔らかい吐息が絡み、僕の迷いもすぐ溶けて消えた。
「……はるか、ほたるが見てるのよ。」
みちるがやんわりと制するが、僕はそれを止める。
「大丈夫。ほら。」
指を指したその先に、ミルクを飲んで満足したほたるの寝顔があった。
僕はもう一度みちるの顔をこちらに向け、今度はもう少し長めに口付けた。
みちるの、凪いだ海のような優しさが、僕の心に入ってくる。
大丈夫。もう揺らがない。僕らはずっと一緒だ。