その日、帰宅したみちるを待ち受けていたのは、ダイニングルームの入り口にうずたかく積み上げられた箱の山だった。扉を開けてまずその箱が視界に入り、一呼吸置いてから鼻腔をくすぐる甘い香り。
「……いちご?」
「ああ、ごめんみちる、今どかすから」
積まれた箱の後ろからさらりと覗く、黄金色の柔らかい髪。それからはるかの声。みちるが背伸びして見ていると、積まれた箱の一部が左側にずれ、人がひとり通れるくらいの隙間ができた。続けて、所属するレーシングチームのウェアを身につけたはるかが姿を見せた。
「すごい量ね」
隙間から伸ばされたはるかの手に自らの手を重ねてみちるはダイニングに足を踏み入れた。箱の隙間を通り抜けた瞬間、甘やかな香りがみちるを纏う。
「今日のレースのスポンサーからもらっちゃってさ」
はるかは、中学生の頃に所属していたレーシングチームを、セーラー戦士として覚醒し戦いの中に身を置くようになってから抜けている。しかし戦いが終わってみちると二人で暮らすようになってから再度チームに復帰し、最近ではレースに出ることも多くなった。
今日はいちごの産地である北関東のレース会場に赴いていたのだが、とあるいちご農家がはるかが中学生レーサーとして活躍していた頃からの大ファンとのことで、少し、いやかなり多くの量のいちごが提供されたのだった。
「それにしても、こんなにたくさん。どうしたらいいかしら」
「あとでみんなに配りに行けばいいさ」
はるかは自身の身長と同じくらいの高さに積まれた箱を見上げながら、共に戦士として戦った仲間たちに言及した。ふたりは今でも、彼女たちの生活圏からそれほど遠くないエリアに居を構えており、たまに互いの近況報告を兼ねて会うこともあった。
「そうね…………きゃっ」
「わっ、みちる?」
不意に、ガタガタガタッ、と大きな音と共にみちるのそばに置かれていた箱の山が崩れてきた。みちるが狭い隙間を抜けようとした時に、後ろ手に持っていた荷物が引っかかってしまったのだ。はるかが咄嗟にみちるを庇うように背を向けたので、崩れた箱ははるかの背に当たったあと、床に転がり落ちる。
「ごめんなさい! 大丈夫? はるか」
「ああ、平気さ」
こんな軽い箱、僕らが戦ってきた敵の攻撃に比べればなんてことないだろ? ……などと軽い冗談を呟きながら、はるかは身体を起こした。幸い、荷崩れはそれほど多くない。柔らかな緩衝材に包まれたいちごも、ほとんどが傷つくことなく箱に収まったままだ。しかし、崩れた山の上の方にあった箱がひとつだけひっくり返っており、中からいちごのパックが二つ転がり出ていた。みちるは慌ててそれを拾い上げる。
「ああ、せっかくのいちごが……」
「どれどれ。……うん、心配しないで。傷はついてなさそうだ」
見たところ、いちごは激しく損傷した様子もなく、艶やかなまま透明なパックに収まっていた。
「だけど、こうなったらもう誰かにあげるわけにはいかないわね」
「簡単だよ。ぼくたちで食べちゃえばいい」
はるかはそう言ってぱちんとウインクをして見せたあと、ダイニングテーブルの上に乗っていた紙袋を手にした。そして中から、一本の白いチューブを取り出す。
「なあに? それ」
「練乳」
紙袋の中には、数本の練乳のチューブが入っていた。件の農家の主人は、はるかが甘いものが好きだという噂まで聞きつけ、ご丁寧に練乳やいちごを加工した菓子まで一緒に持たせてくれたらしい。
はるかはパックの中から大粒のいちごを取り出し、開けたての練乳をいちごに垂らしてから口に放り込んだ。
「ん。んまい」
もぐもぐと口を動かしながら、もうひとつ手を伸ばす。今度はみちるに。不意打ちでやってきたそれに、みちるは行儀の悪さを忘れて思わず口を開けてしまう。が、思っていた以上に粒が大きく、口内に収まり切らない。慌てて口元を手で覆った。
「おっ……き…」
普段のみちるであれば絶対にこんな食べ方はしなかっただろう。はるかの子どもっぽさに釣られてしまったことを心の中で恥じながら、みちるはゆっくりと甘く麗しい果実を咀嚼し、やっとの思いで飲み込んだ。
にやにやしながら様子を見ていたはるかを、みちるはひと睨みして言った。
「ひどいわ、いきなり丸ごと口に入れるなんて」
「これ、品種改良で特別大きく作ってあるみたいだ。すごいな……おっと。ついてるよ、みちる」
はるかはみちるの唇の端についた紅色のつゆに気づき、顔を近づけて舌先でさっとを絡め取った。それから、ちゃっかりとみちるの唇にも舌を忍ばせ、ちゅっちゅっ、と軽い音を立てて啄む。
「んっ……もう」
軽い抗議の声ははるかの口付けに飲み込まれ、さらりと腰に回された彼女の腕により、抵抗を試みたみちるの腕はあっさりと抱き込まれた。みずみずしい香りに囲まれながら、二人は静かに唇を絡め合う。みちるの口内には、はるかの舌先に残る練乳のこってりとした甘さが広がった。
「……あまい」
はるかが離れた瞬間、みちるはちろりと舌を出してそう呟いた。その仕草がどうしてだか、はるかの心に火を灯す種となったようで――ほんのりと染まるみちるの頬にさっと親指を滑らせてから、はるかは耳許で囁いた。
「もっとあげるよ」
はるかはテーブルの上に置かれたパックの窪みに練乳をたっぷりと出してから、またいちごを一粒手に取り、練乳をつけて口に含んだ。今度は飲み込み切らないうちに、その唇をみちるに重ねる。
お行儀が悪いだとか、大きすぎるとか抵抗する要素はいくらでもあったけれど。何より、いちごを前に嬉しそうな顔をするはるかの表情を見たら、みちる自身もその子どもみたいな悪戯に乗ってしまいたくなったのは間違いなくて。たっぷりとした果汁と、とろりと流れこむ練乳の甘みを、みちるは受け止めた。
その芳醇な香りを分け合おうとでもいうつもりなのだろうか、はるかはみちるの口内をいつもよりゆっくりと巡り、ちゅくちゅくと小さな水音を立てながら啜った。繋がった二人の唇からは甘酸っぱいいちごと練乳の香りが漂い、贅沢で、中毒性のある菓子のようだった。夢中になって舌を絡めあい、やがてその味が薄れてきたころ、はるかはさらにもう一ついちごを手に取り、同様にみちるの口に運ぼうとした。
「あっ」
大ぶりのいちごから、ツツーッと滴る白い液体。みちるが着ていたペールグレーのスプリングニットのふち、ちょうど鎖骨の下にぽつりと落ちる。気づいているのかいないのか、はるかは構わずみちるの口にいちごを含ませた。
「ふっ……ん」
今度は一口で頬張らず、みちるは差し出されたいちごの先をかじった。口内で柔らかい果肉が弾けるのを感じていると、はるかがまた唇を重ねる。四つめのいちごも、あっという間に二人に飲み込まれていった。
「……べたつくわ」
はるかが離れてから、みちるは自分の胸元を見て言った。先ほど落ちた練乳が、重力に従い彼女の肌を伝って流れ落ちて行くのが見える。はるかは軽く口角を上げた。
「大丈夫。綺麗にするから」
そう言って、はるかは練乳が落ちた箇所に舌を滑らせた。
「んんっ……」
唐突にもたらされた肌の粟立つ感覚に、みちるは思わず首を晒した。はるかの舌は、ニットと肌の隙間に落ちた液体を器用に絡め取る。それから彼女の指は、中に着ていたキャミソールを引っ掛けて持ち上げ、舌がみちるの乳房のラインに沿ってぬるりと肌の上を這う。
「ちょっと……こんなところで」
はるかはみちるの咎めを聞き入れる気はさらさらなさそうで、先ほど練乳を絞り出したパックに中指の先をちょんと触れさせ、みちるの口元に差し出した。みちるは半ば諦めの気持ちで、それを口に含む。
「甘い?」
勝ち気な表情で微笑むはるかに、首だけで軽く頷いてみちるは答えた。それから口内に残る彼女の指を、根元から先まで丁寧に舌で舐め上げた。上がっていたはるかの口角がわずかに歪む。仕返しが成功したとばかりに、今度はみちるは小さく微笑んだ。
こうなってはもう、どちらも互いを止めることはしないだろう。はるかはみちるに預けた指をそのままに、空いたほうの手でみちるのニットの裾をたくし上げ、ウエストから胸元にかけて指を滑らせた。くすぐったさで、みちるは軽く身を捩る。はるかの指先は迷うことなく下着の中に忍び込み、中で待つ蕾に触れた。
ふらつきそうになる足元を、みちるはダイニングテーブルに軽くよりかかった状態で支え、迫り来る波を受け流していた。はるかの手はみちるの胸を大きく揉み上げたり先端を刺激したりしてから、フロント部分のホックを外して締め付けを解放する。みちるに咥えさせた指と同様にもう片方の指にも練乳をつけてから、つんと主張した胸先にそれを擦り付けて、舐めとる。
「甘いな」
「……もう!」
思わぬ使い方で練乳を楽しんでいるはるかに、みちるは思わず頬を染めた。
いつもと違う場所で、本来の使い方とは違うことをする――即ちそれは、“いけないこと”をしている感覚を増幅させ、羞恥を高め気持ちを加速させる要因になる。はるかはすばやくみちるのスカートを捲り、ストッキングの上からみちるの秘められた場所に指を押し当てた。
「このまま……?!」
信じられない、とばかりに睨んだみちるだが、その抗議もまるで意に介さない様子で、はるかはニヤリと笑った。
「だってみちる、もう待てないだろ?」
言いながら擦り付けられた指は、みちるの中心部がすでに熱く、はるかを待ち受けようとしていることを確かめている。みちるが否定しないのをいいことに、はるかは器用にスカートと、それからストッキングと下着も下ろしていった。そして躊躇いなくそこにしゃぶりつく。
「んっ、ああっ!」
思わずテーブルに手をつき、みちるは声を上げた。見下ろした先には、淡い金髪が揺れながら自分の秘部を明かそうとしているのが見え、思わず目を逸らす。はるかはわざとじゅるじゅると音を立てるように啜った。
つい数分前まで二人が楽しんでいた赤い果実を思い出させる、潤いを感じる音。
みちるがぼんやりとそんなことを考えていると、はるかはまるでその気持ちを見透かすようにちらりと目線を上げ、呟いた。
「やっぱり、甘いな」
「……それ、どっちのこと?」
「もちろん、どっちも」
はるかはテーブルの上のいちごと、目の前のごちそう、もといみちるの熱く滾った蜜壺と、両方にちらちらと目配せして言った。
「…………ばか」
みちるの反応に満足してか、はるかは再びそこ﹅﹅に意識を集中する。舌の先で器用に薄い皮を捲り、中に隠された蕾を摘んだ。溢れ出る蜜を絡め取り、ひくひくと疼くみちるの中を往復する。
「あっ……ああ……、はるか……」
みちるは身体を震わせ、譫言のように彼女の名を呼ぶ。呼ばれたはるかは応える代わりに、たっぷり膨らんで敏感になった芽を吸い上げ、音を立てる。それが幾度か繰り返され、気づけばはるかの口元はみちるから溢れ出る露でつややかに潤っていた。
そこが十分に昂められたことを確認して、はるかは片腕でみちるの細い腰を抱いて支えながら、もう片方の手を中心部にあてがい、二本の指で一気に貫く。
「ふぁっ! ああっ!」
突き上げる衝撃に、みちるは叫びに似た声を上げた。はるかの指先はひくつく内壁を擦り、中が急速に収縮する。片手はテーブルに、もう片手でははるかの肩を握り締め、みちるは涙を零した。
「んっ……ああっ、やっ……あぁ、だめ」
ぐちゃぐちゃと中をかき混ぜる音が、静かなダイニングルームに響き渡る。はるかは大胆に、そしてゆっくりとみちるの中を広げ、ざらつく奥を擦り、出入りを繰り返す。みちるの中の吸い付くような感覚が、はるかにとっても心地よかった。とめどなく溢れてくる露がはるかの手をしとらせ、みちるの太ももを伝い筋を作る。時折思い出したように、はるかはそこに舌を這わせるが、それでは到底追いつかないほど、みちるの中からは蜜が流れ続けた。
慣れない姿勢のせいか、あるいははるかの動きがどこか焦れったくもどかしいせいか。みちるの中では快感の波が押し寄せたり引いたりして、熱を解放するタイミングがなかなか訪れない。次第に焦れてきて、みちるは自然と足を開きはるかに身を預ける形になり、身体を小刻みに揺らし始めた。
「何? イキたい?」
限界を問う声音は、心なしか少し意地悪く、そしてどこか嬉しそうに響いた。少しばかり仕返しをしてやりたかったけれど、叶わない。みちる自身も限界が迫っていることにはとうに気づいていて、早くそこに達したい気持ちでいっぱいだった。
「ん……んっ……、おねがい、イカせて…………?」
とびきりのお強請りを受けて、はるかは口角を吊り上げる。ぐいとみちるの腰を引き寄せ、みちるの好むところに指先を擦り付けた。
「あっ、ああっ……、んんっ、やっ……だめっ、……ああぁっ」
ひくつく中を行き来するうち、みちるの中が強く痙攣を始め、やがてはるかの指をきつく締め上げた。同時に、はるかの肩を掴む指先にも強く力が入ったのを感じる。少し遅れて、身体が何度かぴくんと痙攣した。
さらに数十秒ほど経ってから、ようやくみちるが脱力し、はるかに身体を預けた。そこでようやくはるかも、みちるの中に残していた指をゆっくりと引き抜く。熱い蜜を纏ったそれを、はるかは目を細めて見つめてから、余韻のあるゆっくりとした動きで口に含んだ。
みちるはその様子を目を丸くして見たあと、呆れと恥じらいを含んだため息をついて言った。
「今日はずいぶん甘いものばかり食べるのね」
みちるの言葉に、はるかはまたニヤリと笑い、みちるの耳許で囁くように言った。
「…………続きはベッドでいただくよ」