鈍い刺激が胸元を伝う。もどかしさに身を捩ると、目の前の愛しい恋人はくいっと口角を上げ、意地悪く微笑んだ。その笑みですらわたしを煽るひとつの刺激になるのだから、彼女には本当に敵わないと常々思う。
「この服は……こんなことをするためにあるんじゃ、なくってよ」
ため息と、わずかに乱れた息の隙間から負け惜しみを言ってみるが、それが彼女に通用するはずもなく。どこか楽しげにふふっと笑う声が上から降ってくると同時に、わたしの胸のふたつの膨らみの先が彼女の指でツンと弾かれ、温かい吐息で唇を塞がれた。
日頃から凍てつく空気に囲まれて過ごすわたしたちは、この瞬間、ふたりだけの温かく優しい世界に纏われたような錯覚をする。
「じゃあ『解除』する?」
唇を離しながら、彼女はわたしの胸元に光るブローチを指先で突いた。意地悪く微笑んで囁く彼女に向けて、ささやかな抵抗のために小さく睨んでみる。わたしが、この場所でそんなことを望んでいるわけではないことは、彼女だってわかっているはずなのに。
大きなリボンの下をなぞる指先に焦れて、わたしはまた甘いため息をついた。
月から遠く離れた星、海王星。わたしとウラヌスは外敵を退けたあと、その場で向き合っていた。海王星はわたしの担当領域だし、今回の敵はわたし一人でも一瞬で倒せる程度のレベルで、ウラヌスがわざわざ出向いてくる必要はなかったのだけど、彼女はいつも何かにつけて手助けをしに来てくれるのだ。そしてわたし自身、どこかそれを楽しみにしているのだった。
わたしたちは今、海王星の拠点である城のほぼ裏側、つまり、海王星で一番城から遠い場所にいる。外敵の対応以外で城から離れることのないわたしにとって、普段はまったく縁のない場所。用が済んだらすぐに城に戻る。……いつもであれば。
けれど、敵への容赦ない攻撃をお見舞いした彼女の横顔と、敵が砕け散るのを見届けぬままこちらに向けられた鋭い視線を見た瞬間、ああ、今日はそうはいかないだろう、と思ってしまった。そう、あの瞬間からすでにわたしは、彼女の手中にいたのだ。
わたしが彼女の来訪に礼をしようと口を開いた瞬間、すでに彼女はわたしの背中を捕えていて、言葉を発しようとしたその唇をあっさり塞いだ。大きな岩壁に背を押し付けられ、熱い抱擁と口付けをする。
吐息が混ざり合い、一瞬で身体は熱を持った。私の身体は壁にぐいと押し付けられ、ウラヌスの指先が耳許から首に向けてするすると這っていく。その指は、胸元のリボンに阻まれ引っかかった。ぴたりとした戦士服の上から包み込むように、彼女の手がわたしの右胸を柔らかく掴む。
「んっ……」
一枚の薄い布に、ウラヌスの指先とわたしの肌が隔てられているせいだろうか。期待していた刺激には程遠く、わたしは軽く顔を歪めてみせたが、すぐに緩めて目を開けた。ウラヌスはわたしの気持ちに気づいているのだろう、どこか楽しげな笑みを浮かべる。
「もっと欲しいって顔してるな」
「意地が悪いのね。城まで待てないのかしら」
「待ってもいいけど……きみの方がもつの?」
言いながらウラヌスは、壁に凭れかかったわたしの脚の間に自らの膝を入れた。彼女からの最初の口付けでゆるみ覚束なくなったそこは、あっさりとその侵入を受け入れる。ぐいと押し付けられた膝により、わたしの中心がすでに熱を持っていることを思い知らされた。
「熱い」
心の中を見透かされたような言葉を呟き、またニヤリと笑ってみせるウラヌス。恥ずかしいはずなのに、わたしはその微笑みに一層目と心を奪われ、身体の熱は収まるどころか新たな熱源を生んでしまうのだ。
「でもここじゃ脱がせられないしな」
残念そうに、でもわたしの反応を窺うかのように、ウラヌスは呟く。
そう、ここでは「変身解除」ができない。わたしたちの戦士服は、各惑星の厳しい環境に耐えられるよう、特別な作りになっている。わたしたちがこの変身を解くことを許されるのは、同じく特別な護りを受けた城の中か、月の王国にいるときだけ。おそらくここで変身解除すれば、即死とまではいかないが、じわじわと凍てつく空気に身を晒され、十分もしないうちにわたしたちの息の根は止まるだろう。
冗談でもこの場で変身解除しようなどとは思えないのだが、しかしそれでも先ほど彼女が「解除」を提案したのは理由があった。同じ力を持つ者が傍にいて力を分け与えることで、解除状態であっても少しの間生き長らえることができると聞いているからだ。
もっとも、これはあくまで机上の空論であり、そうしなければならないほど危険な状況に陥ったことはないし、先ほどのような軽いノリで実際に試そうとしたこともない。しかしウラヌスは、いざという時に困らないように、ほんの一瞬だけでも力を試してみることをわたしにたびたび提案してきた。言わば訓練の一貫とも言えるが、それでも互いの身を犠牲にしなければ試すことのできない行為を行うことには躊躇いがあり、ましてや愛を確かめ合う間にそれを試したいとも思えず、わたしはその提案を受け入れたことがなかった。
「まあ、しょうがないな」
ウラヌスはわたしの躊躇いを悟ったのだろう。時折冗談は言うけれど、無理強いする人ではない。彼女はわたしを壁に押さえつけたまま、口で自らの左手のグローブを咥えてさっと取り捨てた。それからその手をわたしの襟元に入れ、隙間を縫うようにして胸の先端にたどり着く。ひやりとした指先に、身体が震える。
「んっ……あっ、ちょっと」
思いがけない直接的な刺激に、思わず声を上げてしまった。こんな辺境の地、誰かに見られるおそれがないことは十分にわかっているけれど、反射的に唇を噛み声を抑えてしまう。
知ってか知らずか、ウラヌスはわたしの胸の先の蕾を思い切り弾きながら、もう一方の手も同様にグローブを取り去ってから、彼女の膝で押さえつけられている脚の隙間に伸ばした。布越しにぐりぐりと指を撫で付けて、レオタードのラインをなぞる。
「ああ……ウラヌス、ねぇ」
わたしは彼女の腕にしがみつく。内心では制止の意味も込めて彼女に触れたのだけど、彼女にはそう見えていないだろう。震える身体は、壁に凭れてはいるものの、彼女の支えを欲している。
わたしにすがりつかれているというのに、ウラヌスの左手は器用に蕾を摘み、右手は中心部を行き来する。きっとそこは、彼女の細く美しい指を求めて熱く疼いているのだろう。自分で触れてみなくても、これまで彼女に嫌というほど思い知らされてきたことだ。敵に攻撃する時は圧倒的なパワーをぶつけるのに、わたしを扱う時は驚くほど繊細で器用な手つきになるから、いつもわたしはその手に翻弄され、乱されてしまう。
やがて、中心部を這う指先は、身体に密着する衣服の隙間から侵入してきた。身体にぞわりとした電流が走り、わたしは掴んでいたウラヌスの腕にぎゅっと力を込めた。彼女は嬉しそうに指先をわたしの前に示してみせた。
「きみは待てないみたいだ」
艶めいて輝く指先は、確かにわたしから溢れ出る蜜で濡れていた。ウラヌスは見せつけるように指先を自らの口に含む。なぜだろう、その姿はひどく耽美的で、羞恥心をとても煽られているにも関わらず、まったく目が離せなかった。流れるような美しい視線、一つの芸術作品を思わせる端正な口元、そこからちらりと覗く赤い舌。彼女の全てがわたしを恍惚させる。
わたしに、彼女を、欲しくさせる。
「ねえお願い、ウラヌス…………欲しい」
気づけばわたしは、彼女に懇願していた。それをここで口にすることは、とてつもなく恥ずかしいことであるはずなのに。ウラヌスは自らの口に含んだ指で、再度わたしの中心を撫でた。そこを覆う布地をずらし、秘められた場所を外気に晒した。指先は的確に、わたしの中に入ってくる。
「んっ……ああ、んぅ……」
待ち望んだ刺激に、わたしの頭はくらくらとした。岩壁にずるずると凭れながら、中を蠢く彼女の指を感じる。わたしはその様子が見えないし触れてもいないけれど、彼女の指の感触で、そこがすでにドロドロに溶けていることはよくわかった。
ああ。わたしはなぜ彼女を求めてしまったのだろう。城の外で。戦うための衣服を身につけたままで。わたしたちは使命のために生きているのに。
ぼんやりと霞む頭にそんな思いが過ぎるが、おそらくどうあっても彼女を止めることはできなかっただろうし、わたしもまた、彼女を求めてしまったと思う。
わたしたちは、今日、そうある運命だったのだ。
「ああっ……はぁ……っ、ん、あっ、ああっ……ウラヌス……」
彼女の名を呼ぶと、ウラヌスは応えるよう口付けてくれる。ウラヌスに触れられている秘部と同じくらいにぬめりを持って熱い口内が、彼女を受け入れる。彼女とつながる部分全てで、彼女を感じている。
ウラヌスの指は、いつもより動きが鈍く、浅かった。ぴたりと身体に密着する戦士服に邪魔されているのだと、わたしは後から気づいた。鈍く緩く昇ってくる快感に、もどかしさを感じてしまう。
もっと早く。もっと深く。その指で触れて欲しい。
わたしの頭から、余計な感情が消し去られていく。ただ彼女を求め、彼女から与えられる刺激に溺れ続ける。
「腰、揺れてる……それに、手も」
しばらくその状態が続いて焦れたわたしに、ウラヌスが低くつぶやいた。ハッとして見ると、彼女の腕にすがっていたはずのわたしの左手は、気づけばずいぶん下の方、わたしの中心部に触れる手首付近を掴んでいた。
まるで、わたしが彼女に、もっと深く触れるよう促しているみたいに。
言われなければ気づかないほど、彼女から与えられる刺激に溺れていたことに、わたしの身体は一瞬で火が点いたように熱くなった。それを見たウラヌスの表情は、心から愉しげな様子に変化する。
「そう……そんなに欲しいんだ。でも、このままじゃやりづらいね」
独り言のように呟いて、彼女は手首付近に力なく纏うわたしの左手を手に取った。わたしの秘部を覆う戦士服にその手を当てさせる。
「濡れてるの、わかる?」
ウラヌスの端正な顔が間近に近づいた。こくりと小さく頷くと、彼女はわたしの手を導き、衣服の端を押さえるようにさせて肌との隙間を広げた。
「押さえてて。これならよく見える。……あとは」
ウラヌスはそうつぶやいてから、おもむろにわたしの右脚を持ち上げ、自らの肩に乗せる。
「ひゃっ……ウラヌスッ、何を」
「もっと奥に欲しいんだろ」
そう言って彼女は、先ほど触れていた中心部に再び指を埋めた。邪魔をしていた布地はわたしの手によってよけられ、脚を持ち上げて大きく広げられたことで、彼女は一気にわたしの奥を貫く。
「あああっ! やだっ、ああっ、だめ、あああん!」
心の準備もできぬままに急激に訪れた波に、わたしは半ば叫びながら両眼から涙を溢す。しかし求めていたものを得られた喜びで、身体は踊り震えながら彼女を受け入れていた。
ウラヌスに従って左手で衣服を抑えたまま、壁に身を預け、空いた手では彼女に必死に縋り付く。そうしなければわたしは支えを失い、意識ごとどこか遠くに飛ばされ、身体が散り散りに砕けてしまう。そんな錯覚をするほどに、彼女から与えられる強い刺激に溺れそうだった。
彼女の指先は激しく、けれどわたしを痛めつけることなく的確に優しく、わたしを突いた。激しさだけでなく時折見せる優しい手付きは、一瞬だが先ほどまでのもどかしさを思い出させ、その後にまた訪れる昂りをより一層際立たせる。絶妙な緩急に、わたしの思考はどんどん鈍っていき、意識は彼女の指先それだけに集中した。
溢れ出る蜜は身体を支える足を伝い、そばで服を押さえるわたしの手をも濡らすのがわかった。きっと中心部に直接触れているウラヌスの手指は、もっと激しく濡れそぼっているのだろう。ほぼ無音の静かな大地に響く水音が、妙にいやらしく聞こえた。指の動きが早まり、わたしはただひたすらに喘ぐだけになる。
「あっ、ああ、んぁっ、やっ、だめ、もう……わたしっ」
ウラヌスの腕をぎゅっと掴む。それを合図と捉えた彼女は、中の指をわたしが求める場所にぐっと擦り付ける。次の瞬間、頭の中は白く飛び、脚がガクガクと震えた。ウラヌスの肩に乗せられた方は、つま先までピンと力が入り、ハイヒールが虚空に向けて突き出された。しばしの間、その姿勢でわたしたちふたりは静止する。余韻を表すかのようにぴくんと震えた内腿に、ウラヌスがそっと口付けた。ゆっくりと肩から下ろされ、中心部に浸っていた指も抜かれる。熱い蜜がとろりと溢れるのがわかった。支えを失ったわたしはずるずるとしゃがみ込む。ウラヌスも目の前に跪いた。
はあはあと短く息をつき、薄目で彼女を見上げると、先ほどまでわたし攻め立てていた鋭い視線は、優しく労わるようなものに変化していた。わたしの頬にそっと手を添え、柔らかく軽いキスをする。それから彼女が片手を差し出したのでその手を取ると、さっと身体ごと引かれ、次の瞬間わたしは彼女に横抱きにされ持ち上げられていた。
「さあ……続きは城で」
耳許に響いた低い声に身体を震わせ、彼女の瞳を覗くと――再び鋭い光を宿した視線がこちらに向けられていた。鎮まったように思えた身体の熱が再び灯る。わたしはまるで眩惑されたかのように無意識のうちに首を縦に振り、彼女に腕を回しすがりついていた。